さまざまな桜の開花

 日本農業新聞 野良ばなし(平成17年3月24日)掲載

わが国には季節を彩る多くの花がある。厳冬を耐えて芽吹く、可憐で香ばしい梅を愛でる人や名句と秀歌で春のさくらは今も暮らしに生きている。

今年の桜の開花は、全国的に概ね平年並みで、週末から来週の初め頃からさくら前線がやってくる。今年の三月は天気変化が激しい。不安定な天候の下、東京は1998年3月6日の1センチ以来の積雪の後、一転して春うららのぽかぽか陽気となったり、気温の上り下りで体調維持に気を使う。

農家の春先の天候を見る目には、一年の吉凶を占う思いがこもり、一段と鋭さが増し梅や桜の開花状況の微妙な変化に敏感だ。迎える一年の長き野良仕事の前の景気づけと豊作の願いがお花見。それ故か、いにしえより村一番の長生きしている生物に桜の木が多く見られる。

今に残る村の鎮守の森や名所には、江戸開府の頃よりの樹齢を誇る桜の古木も珍しくない。まもなく花繚乱に咲き誇る、幾多の風雪を生き延びた満開の桜の精をいただき、気持ちも新たになる。農家の歌声と踊りの宴で、厳しい自由貿易協定(FTA)や牛海綿状脳症(BSE)問題を乗り越えて欲しい。

近年、青森産のリンゴが中国や東南アジア諸国で、高級品として歓迎され農産物輸出の先鞭をつけた。守りから攻めの時代を迎えつつある中、農家を後押しする政策やブランド農作物の育成を指導する力量が地域のJAに望まれる。

地産地消で地域に根をおろし、トレーサビリティーの徹底で、外国産農作物に対抗し、一年の天候をしっかりと読み取りながら品質を高めることが重要。俳聖芭蕉の句「さまざまなことを思い出す桜かな」は全ての農家の永遠の想いでもあるようだ。


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