農業と貿易交渉

 16.1.1
 
 輝かしき新年を迎え、皆様方のご多幸をお祈り申し上げます。

 昨年は、2月のWTO問題が先進国と発展途上国、輸出国と輸入国の利害調整が不調のまま終わった。その未解決のまま、続く秋口に始まった自由貿易交渉(FTA)で我国の予想された課題が残されたまま新年を迎えた。我国の昨年の貿易全体としては、大幅な黒字を計上し、収支上、誠に結構な数字が報告されている。

 世界の中の日本、ASEANの一員としての明確な貿易政策の公開と実行力が試される年の始り。軍事力増強へのアレルギーは、毎年の教科書問題で周知の事実。
ASEAN域内のお互いの発展を見据えた貿易交渉の正否で、我国の未来が見えてくる。

 今年は、農業に携わる者や関係者にとっては、2国間交渉を主体としたFTA事務折衝の交渉結果がどうなるのか、正に正念場の年となるであろう。

 目覚しい経済発展を遂げる中国の外交交渉力と存在は、ASAN域内における不動の地位を確立しつつある。一方、明確なビジョンを示し得ない日本は、その影響力が急速に低下している。年初に再開される友好国とのFTA交渉の成功で弾みをつけ、各国との農業交渉の成功に全力を傾けることが望まれる。

 我国の農業・食糧問題の基本的スタンスをどうするのか、政府の考え方や方針の決定過程において全農初め、各JAの組織を挙げての取組みが大きな意味を持ち極めて重要である。

 そこで、インターネットの普及と情報公開の流れの中、組合員のJA離れが一段と進行していることが伏線となっている。
 原因は大きく見て2つある。先ず、組合員にとっては、JAに加入するメリットがなくなっている。農家の1年の成果である農業収入は、単純に出荷した市場の市況による。現状の市場における日々の価格の動きは誰も予測しがたい面はある。
 但し、最適価格による出荷を望む農家に対して責務を負うのが組合であることに、JA自体が本気で取組んでいるのか不透明。農家にとれば、予定価格が計算されなければ、家計に余裕はなく農業経営の安定どころか、日々の農作業に身が入らず死活問題とさえなりうる。生産価格に責任をもち努力・言及しないことでは、農家がJAの構成員である必然性は見出せなくなるのが道理である。

 次に、消費者の安全・安心な農作物を求める気持ちや動きは完全に定着した。
 既に、姿・形の美しさよりも泥付の大根、曲がって虫のついた野菜の方を良しとする、本物志向の都市部の消費者が多数を占めつつある。多少のことなら、家計を圧迫する価格をも負担するという。

 大手のスーパー等による、JA抜きの生産農家との直接取引きがそれを物語っている。当然であるが、農家は最も自分の商品を評価してくれる人、消費者を求めている。今や、現代の通信・流通サービスの自由化の長所・メリットを誰でも簡単に活用することが可能となっている。

 やる気さえあれば、その日からインターネットの活用で、自ら全国の消費者に情報を発信し、自己努力の結果責任の覚悟が出来次第、産地直送ビジネスを即時展開できる。
 即ち、農家が農業をビジネスと意識した日から、JAに所属する必然性が全くなくなりつつある。

 貿易黒字の拡大は、自由主義経済・自由貿易国家の恩恵を十二分に得ている証左である。そのトップ集団の中を走る我国は、WTOやFTA体制の堅持に、相応しい役割を果たす義務がある。一方、我国は農家を含めほぼ全産業において、高賃金・高コストの高度に成熟した資本主義社会となっている。

 即ち、価格では既に、競合する製品として、中国を初めアジア各国等の農作物や水産物及びその加工品においても、急速に競争力を失いつつある。これが現状の姿。 

 よって、高水準の関税障壁による米作農家の保護・育成に代表される農業保護政策が根底に存在し、海外から開放の声が日増しに高まっている。このことは、農家の問題であるが、実は我国の食糧、安全で栄養価の高い食品の安定供給をどう考えるのかという国民的課題であるのは間違いない。

 従って、農業交渉を国の基本的最重要案件として、昨今加熱気味に肩の力が入っているが、依然として稚拙な外交の突出を牽制し、大いに世論を喚起し、各方面で深い議論を展開する事が望ましい。

その流れを作り自己の存在意義として、真剣に組織で取組むのがJAの役目であり、上部団体代表である全農の仕事であろう。このことは一組合員である農家や周辺の関連業界だけでこなせることではない。そこにこそ、組合組織の強みと固いネットワークの力がある事に気が付き、真摯に対応して頂きたい。

 将来に亘る国民の健康問題に責任のある国家の食糧問題に、具体的に提言し、農業問題に関するこれまで培って来た多くの研究の成果・実績を踏まえた自信と確固たる信念及び強い理論的姿勢が欲しい。農家に正面から向かう勇気と誠意が必要。
 その実践と農家との、これまで以上の本音の意見交換と情報公開を、農水省と共に一丸となって、強く安全な高付加価値の農作物を作り続けること。組合員の支持なきJA、JAの信頼なき全農であれば、グローバル化の進展した、世界貿易問題に提言・寄与することはおろか、厳しい産地間競争での生き残りの解決策を見出すことはほとんど不可能であろう。

 この点を是正した趣旨が明確となれば、政府の推進するe-Japan構想に沿った、産学官の連携、経済特別区プロジェクトが、具体的に農家を捲込んだ形になり得るだろう。

 独り農業問題だけではなく全産業において、資源小国の我国は各々の置かれた状況や実体を正しく理解する必要がある。2国間のFTA、多国間のWTO交渉を個々の狭い主義主張を超えて、国民全体の共通問題である事を折に触れ議論を深め、地道な努力の成果を得る道程の一里塚を打ちたてたいものである。

 少々、話題がそれるが大切な話がある。昨今の選挙における、恒例となってしまった低い投票率は、極めて憂慮すべき兆候である。民主主義国家・自治体は、選挙によって選ばれた議員がその方針・行く末、予算の実行を決定する民主的ルールである。よって、投票しないことは、ルール違反であり、全ての権利義務を自ら放棄している無責任な恥ずべき行動である。こんな無責任な結果の議会に正当性はなく、いびつな社会を醸す主因となっている。議会の無策は選挙民の無関心によるところが大きい。

先の総選挙で、組織化された二大政党に収斂される結果が出た。結果が全ての選挙に、一票の重みを個人個人が真剣に反映させる時である。
国・自治体の未来は、自覚した成人の正当な自由意志の総意が反映されなければ、一握りのグループによって、簡単に悪しき方向へリードをされる危険性を常に孕んでいる。

 幸い、まだまだJAやJFは人の繋がりが強く信頼関係を最も大切にしている。
この点から言って、国の100年先をも考えうる強く健全な代表者を、組織から国会へ送り出す事が出きる数少ない団結力を有している。

現代の錯綜する時代において、生きた現場の心からなる声を、農業政策に訴え反映しうる組織であり、公平なチャンスを見事捕らえて欲しい。

知識はあるが実地経験不足の頭でっかち官僚や声の大きな一部政党と議員の意見がそのまま通る国政の状況だけでは、国の構造改革なんかできはしないことが昨年までに明白となった。

我国のあるべき農業・漁業の姿と明るい将来を語り合う土俵ができる年であることを祈って止まない。

 ともあれ、現代の我国農業にとって、貿易問題を離れてその未来はない。



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