スーパーカーゴ

 15.4.1

 スーパーカーゴというニッチな職業がある。貨物船の積荷監督のこと。
 昭和四十年代、日本経済は日の出の勢い。世界の産業の分業・水平化が叫ばれ、ジャパンアズNo.1。最長不倒の好景気が続き、通産省の音頭高らか国を挙げて熱い時代。一時の砂上の楼閣に気が付かなんだ。中国やオーストラリアから鉄鉱石・石炭を輸入、岸壁が丸ごと広大な製鉄工場の敷地内にあるミールポート。高台や沖から眺めると、恰もキリンが屹立しているような巨大なクレーン群がフル稼動。

 最新鋭の高炉から吐き出される高品質の製材は米国で引っ張りだこ。
 HRC(圧延コイル)、CRC(冷延コイル)、シームレスCが、10tトラックに満載され、次々に岸壁に横付けされる。コイルといっても、1個が2t~10tを越え、直径・サイズ・品質も多種多様。
 荷主借切りの岸壁は、バースタームといい、高額な利用料で荷役作業員達(ギャング)を2~3ギャング予約する。為に、天気の読みと気の荒い荷役会社の班長を督励し、荷主の立場で積荷作業を監督する専門家は最重要。

 海員組合の奢りと世間知らずで、日本人の船員の給料は既に世界トップクラス。結果、優秀・勤勉な日本の船員の職場を奪った。
 日本の若者の船離れもあり、船長・機関長・通信士等の士官はギリシャ・珠に台湾人、乗組員は低賃金の主にアジア系が占める混乗船。積み地新日鉄・川鉄・住金のミールポートを駈け廻り、揚地は米国東海岸と西海岸の主要港。

 貨物の質量・寸法とローテーションで積荷計画を都度計算し、瑕疵のないよう船倉に積み込む。暗夜、船首・船尾の喫水を梯子にぶら下がり確認し、リフトの作業員へ気を配る。数百トンのコイル・板金等を昼夜ぶっ通しで船倉に固縛。買主側のコーンズ社検収員とのやり取りは立場が正反対。レポートに記載する1個毎のコイルに錆びの有無、程度等熾烈な神経戦。

船長・C/O(チョッサー)といえど、スーパーカーゴに口出しできない世界。晴れた日は良いが、雲行きを眺めつつ、荷役作業の判断に迷う日々。日本経済が順風満帆、20代後半の頃の話。


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