ポリニア

 ( 協同組合通信/日和見論弾 ) 平成17年10月19日

真冬でも凍らない不思議な海域が北極のポリニア。カナダ北西部に7箇所ある。冬は、おおよそ東京都程度の面積で、周囲の白い氷の中に、ぽっかりと存在する真っ青な海。春の訪れで、沈まない太陽光が、巨大な氷をじわじわ溶かし、ポリニアが広がる。7月頃約50倍となり、巨大な海が出現する。海洋生物の荘厳な暮らしとエネルギッシュな生存競争が繰り広げられる、食物連鎖の宝庫。

厳しい北極の氷の海に、春になると強い季節風が吹き出して、氷が溶け出し流されて行く。海明けのような現象で、ポリニアへと続く水路がつながる。陽光で浅い氷の棚に海草が生え、植物プランクトンが海中を漂い始める。次に、動物プランクトンが集まり、オキアミが群がり、北極ダラの大群が真っ赤な帯の如く旋回する。

水路を辿り、やって来る大型生物に「イッカク」という角のある鯨がいる。この鯨は賢く、神経を集中して「クイック音」を発し、音波が当たる方向と距離を脳細胞の「プリン体」を活用し、餌となる魚群(北極ダラ)の居場所を突き止める。いわば、魚探を脳に持っている。仲間同士で、クイック音をたくみに発し合い、魚群を囲むという。まき網の船頭もびっくりする漁労技術や能力の持ち主だ。

ポリニアの生活にも慣れてくると、角揚げ競争が静かに繰り広げられる。大きなオスでは、8メートルの角を持つ。季節になると競争でボスを決める。決して、他の陸上の一角獣のような争いなどはしない。長い角が、致命的な死をもたらすことを知っているからという。

勝者のオスはゆっくりとメスに近づき、求愛する。最初は袖にするが、何度か長い角の愛撫を受けるとめでたしとなる。この辺のやりとりは人間の男女の恋の駆け引きにそっくりだ。さすがは哺乳類。やがて、ボスはハーレムを形成し、ポリニアの短い極上の初夏を楽しみつつ、メスと一緒に子育てをし子孫を残す(NHKより)。

北欧の北の海を席巻したバイキングが、一角獣(ユニコーン)をシンボルにし最も大切にしていたことの意味がよく分かる。海賊の荒々しさの心の中には、案外、イッカクの王者の風に対する憧れがあったのだろう。

( 気象情報システム株式会社 高 津 敏 )


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