<前立腺がん治療は、高齢者に対する治療です!?>
前立腺がんは高齢者の病気です。
大半の患者さんは75歳以上の高齢者です。
高齢者は、臓器機能、認知機能、生活環境などの個体差が大きく、暦年齢だけでは高齢者の治療選択は難しい。
ただ高齢という理由だけで標準治療が行われないことが多いのが現状です。
一方で、人生100年時代と言われるようになりました。
お元気な高齢者が増えているのも事実です。
がんが見つかっても、お元気な方であれば、若い方と同じような標準治療を行うことも最近は増えています。
高齢者で非高齢者と同様の標準治療が行えるかどうか、客観的な評価法が必要です。
前立腺がんが見つかって、症状が強く、また、命に差しさわりがあるような進行前立腺がんであれば、やはり治療を考えます。
進行前立腺がん、転移性前立腺がんの最初の治療の中心は、去勢術です。
最初の去勢術で効果は認められます。
しかし、その効果は永遠ではありません。
去勢術の効果が認められる期間は、患者さんによりさまざまですが、効果がなくなれば、『去勢抵抗性前立腺がん』の状態となり、新たな治療選択が迫られます。
『前立腺がんは高齢者の病気です。』といいましたが、去勢抵抗性前立腺がんになった場合は、治療開始時期よりさらに高齢化しています。
『前立腺がん治療は、高齢者に対する治療です。』
と言い換えられます。
高齢者とくに70歳を超えてくると、治療に関してもどこまで、若年者と同じようにできるかという問題があります。
年齢をかさねると、どうしても、前立腺がんに限らず、様々な病気がでてきます。
老眼、難聴、記憶力低下などの老化現象だけでなく、狭心症や心筋梗塞などの心疾患、脳出血や脳梗塞、糖尿病、肝障害、腎障害などが増えてきます。
病院で処方される薬剤の量・種類も増えてきます。
また、ベッドで寝たきりだったり、食事がとれない状態だったり、認知症やうつ状態が強い場合もあります。
特に高齢者では様々な併存疾患や精神状態、家庭環境が複雑に絡み合っていて、治療法の選択は簡単ではありません。
身体的な問題に加え、家族の援助が得られない患者さんや、経済的に苦しい患者さんもいらっしゃいます。
現在では、家族と同居している高齢者は少なくなっています。
配偶者がお元気であればいいのですが、そうでない場合も多いですね。
体力、生活・社会的環境などで様々な事情で、高齢者に限りませんが、必ずしも前立腺がん標準治療が受けられるとは限りません。
転移性前立腺がんなどで、急速に悪化している場合などは、治療の選択に難渋する場合が少なくありません。
また、病期が進行すれば、体力的に様々な治療を試す時間もないかもしれません。
前立腺がんで、去勢抵抗性前立腺がんになれば、以前からある内分泌療法(MAB療法、抗アンドロゲン剤交代療法、女性ホルモン)や新規内分泌療法(イクスタンジ、ザイティガ+プレドニン)などでは、治療効果に限界があります。
やはり、ドセタキセルの化学療法やジェブタナの化学療法なども試してみたくなります。
『高齢者に、抗がん剤治療はできるのか』
という問いには簡単には答えられないというのが、本当の所です。
患者さん家族は、抗がん剤治療と聞くだけで、抵抗が強く、医療側も、反対されてまで、強く勧めることができません。
また、副作用で身体を傷めて、寿命を縮めれば、何をしているかわかりません。
以前も解説したことがありますが、いかに高齢者を客観的に判断して、標準治療の適否を決めるか、かなりの難問です。
患者さんは患者さんそれぞれで、みな違うからです。