てんてんCafe

2007/03/15(木)01:24

「グラン・ヴァカンス」「ラギッド・ガール」(廃園の天使1・2) 飛 浩隆著

今日読んだ本(17)

ちょっとネタバレしてるかも。気になる人は読まないでくださいね。茶ま太さんお勧めのSF小説です。 廃園の天使1「グラン・ヴァカンス」 ネットワークの何処かに存在する、仮想リゾート〈数値海岸〉の一区画〈夏の区界〉。そこでは、〈グランドダウン-大途絶-〉と呼ばれる日を境に人間の訪問が全く途絶えてしまう。それから1000年、区界ではゲストのいないAIだけの変わらない夏が繰り返されて来た。しかし突然その静寂が破られる。〈蜘蛛〉と呼ばれる謎のプログラムが、区界のあらゆるものを飲み込み破壊しつくし始めたのだ。わずかに生き残ったAI達は、力を合わせてそれに対抗しようと試みる。 こう書くとパニックもののようなのだけど、(実際私も蜘蛛が出てきたときにそう思った。)実は蜘蛛は(このお話には)さほど重要ではない。夏の区界の可哀想なAIたちを追い詰めるツールに過ぎない。 語られたのはAI達の痛みや、悲しみ、苦しみである。 このAI達は、何故か血肉を備え、痛みを感じ、罪悪感を感じ、ゲストの仕打ちに苦しみや怒りさえも感じるのだ。一体何故?彼らの感情ももしかして、ゲストの愉しみに饗されるために備えられた感情なのか?(だとするとなかなか悪趣味な趣向だ。)そんな追い詰められたAIの感情や感覚に感情移入しながらも、時々彼らが人間でなく、コンピュータプログラムであることに気づかされる瞬間があり、読み手はふっと突き放される。そのギャップ、その浮遊感がとても不思議で興味深かった。それは、あまりに残酷で美しいイメージ、胸苦しいようなエロティックなイメージと共に描き出されるのだが、そういった不思議な違和感が常に伴っていて、それに気づくのはある種の居心地の悪さではあるのだけれど、それを捜さずにはいられないのだ。不思議な魅力のある小説だった。さてこの電脳アミューズメントパークは、人間のありとあらゆる欲望を満たすために作られたらしい。それがどんなものかは推して知るべしだが、とにかくその人間の行為にいちいち、辛さを感じたり、痛かったり、その事をずっと忘れられない彼ら。一体そんなAIを誰がどんな経緯で作ったのだろうか。また、〈グランドダウン-大途絶-〉がどんな事件だったのか。ゲストが来なくなったわけは?そもそも、人間はこの世界にどうやってアクセスするのか?ランゴーニって誰なの?などなど。。。そんな汲めども尽きぬ疑問へのアンサー編にあたるのが↓ 廃園の天使2「ラギッド・ガール」グランヴァカンスが、1本の長編だったのに対し、ラギッドガールは5編からなる中・短編小説である。こちらは、どうしても嵌らなかったジグソーパズルのピースが、ぱちりぱちりと嵌っていく楽しさがあって、とても面白かった。特に、多重現実をまとった人間が、留守録するように自分の似姿を数値海岸に放っておいて、家に帰ってから、その不思議な箱を開けるという(イメージ)、独特のアクセスの仕方が面白かった。このあたり非常にハードSF的な説明が多くて、難しいのだけど、理解できる人はとても面白いのだろうし、出来ない人も適当に読み飛ばしてしまっても充分面白い。(無論私は後者だ)どのストーリーも面白かったのだが、とても興味を惹かれたのが、「魔術師」。AIがごく人間に近い感情で動いていることは分かった。そして、ゲストとして訪れる人間はいわずもがな。しかしエージェントとして放たれた情報的似姿が、自分が似姿であることに気づいて、虚無に陥るというのはどういうことなのか。いくら想像しても想像力が追いつかない。情報的似姿は、自分の身代わりとして数値海岸でいろいろな行動を取るのだけど、その似姿にも独自のアイデンティティを備えているのか。変なことを思いつく人だなあ。あ~。。。あと、グラスアイのこととか、蜘蛛の王のことにも触れたかったのだが時間が無くなってしまった。とにかく3巻が楽しみなのだが、いつ出るものやら皆目見当もつかない。(笑)今まで想像もしなかった新しい世界。あなたも覗いてみない?

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