てんてんCafe

2007/09/10(月)00:06

夕凪の街桜の国

今日見た映画(39)

     夕凪の街桜の国を見て来ました。 久しぶりに、自然に涙がこぼれる映画でした。ただ、違和感を感じる所もあって、涙をぼろぼろ流しながらも突っ込みを入れてしまうという、微妙な感想を持ちました。 皆実は素晴らしいキャスティングで、まるで漫画から飛び出てきたような印象です。でも、ちょっと綺麗で儚すぎるかな。皆実という人は、原爆症で亡くなってしまうとても悲惨な運命を背負った女性ですが、それが無かったら多分意外に図太。。。ゴホンゴホン!いや、たくましい人だと、思うのです。靴が減るのが嫌で裸足で歩いちゃうし、お行儀も悪いし、屋根だって登って直してしまう。映画の皆実は、清楚で儚くて本当に綺麗。 旭君の手紙を見ながらゴロンと横になって「相変わらず汚い字。。。」なんて、絶対に言いそうにないです。でも、原作皆実のそういう大らかさや逞しさが、後の七波に、父をして「お前は皆実姉ちゃんにどこか似てる」と言わしめたと思うので、その辺の皆実の性格の改変がしっくり来なかったなあと思うのです。(田中麗奈の七波がまた必要以上にがさつなだけに(;^_^A )それから、被爆のことを打越さんに語るシーン。妹を背負ってさ迷うという設定は、(霞おねえちゃんをカットしたこともあって)より悲壮感が漂うし、上手かったと思うのですが、その後の皆実の独白がカットされていたのがちょっと残念だったと思うのです。(泣いていて良く憶えていないのですが、確かカットされていたと思います。) 死体を平気でまたいで歩くようになっていた。(中略) わたしは  腐ってないおばさんを冷静に選んで  下駄を盗んで履く人間になっていた。(後略)このような台詞だったのですが。。。 その時の、あまりに酸鼻を極めた状況に感覚が麻痺し、人間らしい感情を失ってしまっていたことに、彼女は罪の意識と悔悟の念を持っていたのです。だから、「そっち側の人間じゃない」と思い、「幸せになってはいけないのではないか。」と感じていたのです。決して、妹や友達やたくさんの人々が死んでいったから申し訳ないというだけの感情ではありません。本当に自分のことを恥じて、罪深さに恐れを感じていた皆実。。。 その想いがこの台詞に繋がってくるのです。 そしていちばん怖いのは  あれ以来  本当にそう思われても仕方のない  人間に自分がなってしまったことに  自分で時々気づいてしまうことだ映画でもこの台詞が使われるのですが、皆実の心の暗黒面に触れていないために、とって付けたような言葉になってしまいました。何故もっと人間「皆実」を掘り下げてくれなかったのだろう。私はそれがこの映画の中で唯一最大の残念なところです。本当は細かく言えば他にも「この演出は~」と思うところもあったのですが、全体的には、原作の想いを充分に伝える感動的な映画であったと思います。皆実の、皮肉をこめた悲痛な叫び 原爆を落とした人はわたしを見て  「やった!またひとり殺せた」  とちゃんと思うてくれとる?この言葉は原作を知らない人にもきっと衝撃を与えたでしょう。 最後に七波の父がつぶやく言葉 お前が幸せにならなきゃ  皆実姉ちゃんが泣くよこの作品は、この一言に集約されると言っても過言ではありません。 全てのヒロシマの2世・3世、そしてすべての戦争被害者の子供やその孫達への作者のメッセージだと私は思います。 昔起こった悲劇を繰り返すことなく、一人ひとりが幸せになること。それが皆実や京香や、たくさんの道半ばで亡くなった人々を供養することなのだと。。。髪飾りを通じてそんな人々の思いが語り継がれ、そのバトンは七波の手に渡されました。(あの髪飾りの使い方はとても分かりやすく秀逸でした。) 七波がその想いを受け取り、広島の旅を通じて何を感じ、これからどう生きるのか。それは七波だけでなく、これからの世を生きる私達一人ひとりに向けられた問いでもあります。この物語の最終的な主人公が皆実ではなく七波である所以でもあると思いました。 最後に、私はこの作品(漫画)に出会うまで、何となく戦争をテーマにした作品が苦手でした。戦争加害国である日本人なのに、声高に「された事」ばかりを言い募ることに疑問を感じていたからです。自分の国がしてきた恥ずかしいことは口を噤んでしまうような教育のあり方に胡散臭さを感じていたからです。 でも、この作品を読んで、確かに日本は戦争加害国だけど、その国民一人ひとりはやはり被害者なのだと改めて気づかされました。そう思ったら、素直に物語に入り、素直に涙していました。戦争を知らない全ての人に、原爆を知らない全ての若者に、そして、いろんな苦しみを経て私達を育ててくださった全ての方たちに、この映画を見て欲しいと思います。    映画の後、一人でご飯を食べましたが、一人では「目~腫れてる?ちゃうねんちゃうねん。悲しい映画見てなあ。。。」などと口走るわけにも行かず、すごく恥ずかしかったです。(笑)  

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