寺山修司
ル・バルは2010年に設立され、様々なテーマでドキュメンタリーイメージの展覧会を行うパリの文化施設だ。現在、日本を代表する現代写真家らが1968年から69年に刊行した伝説的な同人誌『プロヴォーク』(挑発の意)を紹介する同名の巡回展を開催している。写真により当時の革命の世相を反映し、新たな思想を探求した者たちの試みを展観できる(パリ展は12月11日まで)。 地上と地下の展示会場は、黒と白を基調に3部構成の序章「プロテスト(抗議)」から始まる。60年と70年に起きた安保闘争は日本史上最も大規模な反政府活動となったことを、北井一夫や東松照明(とうまつしょうめい)、新聞・雑誌社や大学生ら有志が緊急に撮った多数の写真が語る。 地下階は2章「プロヴォーク」と3章「パフォーマンス」が並ぶ。まず、高梨豊や森山大道(第2号から参加)、数々の評論も残した中平卓馬と多木浩二に、詩人の岡田隆彦らの写真やエッセーからなる同誌全3号を解体。欧米でも人気の「アレ・ボケ・ブレ」と呼ばれる不鮮明だが力強い白黒写真が既存の美学を覆した写真表現として結晶。形骸化させた世界を現実として提示、固定概念に挑む行為として言及される。 また、同時代に市街や公共空間で展開された、前衛芸術家集団ハイレッド・センターの「直接行動」や寺山修司の演劇の記録映像も紹介される。これらの行為もプロヴォークがみすえた凝り固まった日常と表現の解体であり、それらの境が突如失われた時の言論を誘発する。 変革が求められた時勢、そのとき近代との決別を表明し自らを理論づけながら新たな知の体系をめざした芸術行為のあいだの相関性も際立たせた同展は、来年シカゴ美術館を巡回する。(飯田真実・美術史家