テーマ:今日のワイン(6005)
カテゴリ:Degustation
美術品同様、ワインの贋作が中々明るみに出ないのは買った人が騙された事を認めないからである。本物だと信じきって(実際に大枚を払って)贋作の名画を居間に飾っている人なら誰もが来客に「これは贋作だ」と言われるのを嫌がるようにワイン会で自分の出した高価なワインを「贋作だ」と言われるのは嫌だろう。それは正しく自分の無知を認める事になるからだ。購入した後に新しいエチケット、bouchon、そして近代の瓶(多くは茶褐色だ)、と明らかにリスクの有る古酒(多くは中小のネゴシアン)を酒屋の言葉通りに蔵元がreconditionして再出荷した本物と信じる気持ちは判るが、実際のところは「信じるものは救われる」以外のなにものでもない。 今回のRP氏の件もDon Cornwell氏の私的な摘発があったにせよ、結局はRP氏のワインを買ったコレクター自身が法廷に訴え、Ponsot氏の証言を得てFBIが動いたからだ。しかしそれは例外で、贋作と知るや否や、善意の第三者を装って無知な買い手に密かに転売されている事が多い(Don Cornwell氏が色々なオークションサイトを見て警告しているが写真を伴わない比較的廉価のロットも多く存在する)。また小売のラインに流れてくる事も多い。言わばババ抜きのJokerのようだ。 さてその贋作のワインだが、まあ美術品と比べれば 数百万を超えるのは例外中の例外で精々損害は数万なので、これを引いてしまったなら、もう楽しむしか無いだろう。Henri de VillamontがDr. Baloretを買収して商標を持ったのは1969年でその際かなりの数の真正Baroletが売却され世に出ている。この際のエチケットはHenri de Villamontの名が入り、所在地はSavignyだ。その多くは殆ど飲まれただろう事は想像に難くなく、このワインも新しいエチケット、bouchon、瓶と3点セット、それに一切腐食の無いキャップシュール、と全ての点で、ほぼ間違いなく贋作だ。 さて、ここは「信じる物は救われる」の発想を捨て、蛇が出るか思いっきり楽しむしか無いだろう。と言うわけで開けていただいたのだが、これが中々良かった。勿論本物のDr. Baloret(飲んだのは随分と前になるが)とは違い果実はくすみフィネスこそはないものの、それなりにチャーミングで深みも有り、全くマデラ化した所はなく、熟成ワインとしては中々良い出来だと思う。 ここで贋作を引いた楽しみとして出自を大胆に推測してみる。ワインの質はまずまずなので胴元作の可能性が高い。このエチケットではネゴスの所在地がBeauneだから可能性として、Henri de VillamontがArthur Baroletブランドを立ち上げた70年代後半か80年代の作であるように思う。数万円の価値は無いだろうが、まあ1万円程のワインと言われればそうかなと思う程の出来だ。 このワインを飲みながら英国のTom Keatingという著名な贋作美術家の話を思い出していた。DugatやMonet、Sezanneなど2000点を超える贋作をしてそれがバレるや否や彼の絵は殆ど無価値になったのだが、彼の死後、その完璧な贋作ぶりが評価され今や100~200万で取引されている。所有者曰く、「だれも贋作だと判らないし、第一ほんの僅かな金額で90%の楽しみを与えてくれる」。 実はこれと同じワインを私も1本持っているのだがその1本はしばらく取っておく事にする。数万円程度なら贋作でもネタとしてSNSやブログに上げて尊敬を勝ち取るにはまあ良いかもしれない。 あ、ここで贋作って書いてしまっていた。やっぱり⚪フ奥で処分するか(笑)。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
[Degustation] カテゴリの最新記事
|
|