世間では絶大な人気があるこのクリマだが、私的にはどうも苦手だ。Vogue, Roumierという超人気ドメーヌを何度も飲む機会が有ったのだが、それほど感銘を受けず、寧ろ、このクリマを作る中堅以下のドメーヌの酷さに閉口してそれから少し遠ざかっていた。ひょんなことからこの大手有名メゾンのこのクリマのワインを味わう機会が有った。
ネゴス物であるし、このメゾンは堅実な作りというイメージが有ったので先入観無しというか、全く期待無しで飲んだのだが、一口目で仰け反ってしまう位感銘を受けてしまった。多分元々シルキーだったのだろうが、20年以上を経てタンニンは殆ど感じず、少し重心の低い赤果実。まだ若さもあるが、樽から来るエピス、バニラが溶け込んでしっとりとしている。妖艶という言葉が相応しい程官能的。往年のJayerのワインも勿論官能的なのだが、そちらは踊り出す程euphoricであるのに対し、このワインは蠱惑、耽溺だ。少し背徳的でもある。これは怖い。同じ村でもMusignyは幽玄、枯淡の世界だが、これは正反対の肉感、濃艶の世界だ。これは怖い。 一度こういうワインを知れば、心奪われ、ブルゴーニュの森の中を当てもなく彷徨い追い求めて行くのだろう。 究極のワインを追い求めるブルゴーニュ通と言えば崇高に聞こえるが、実際はキャバクラデビューの楽しさを忘れられずキャバ通いにのめり込んでいく哀れな中年男と変わらない。
前にも書いたがamoureusesには「情事」という意も有る。情事は一度で切り上げた方が良さそうだ。泥沼化する前に。