テーマ:今日のワイン(6005)
カテゴリ:Degustation
今年の日本の夏は歴史的な熱波に見舞われたが、2003年のフランス、ブルゴーニュもcanicule historiqueであった。私は偶々夏と収穫時にブルゴーニュに居たのだがどのドメーヌも難しいVTを乗り切れるか心配していた。端的に言うと過熟で果実味が凝縮しすぎる一方、酸が少なく、或るドメーヌでは苦肉の策として未熟果を絞って足していた。さて、その2003から15年経った。
赤の方は結構こなれて来たのも多いような気がしている。勿論作り手やクリマに依るのだろうが、色々飲んで見た感じでは村名やレジョナルなど比較的下位のクリマ、薄旨系の作り手はそれなりに纏まって来ているように思う。一方で白はかなり難しいというのが私の印象だ。過熟により、酸が少なくPHが高い果汁になったため、発酵に当たって法律的に認められている補酸に走ったドメーヌもかなり有ると伝わって来た。実際私も補酸と思われるワインを幾つか経験している。
さてこのワイン。香りに若干の焦げが感じられ飲むまでもなく酸化が始まっている事が分かる。そして口に含むとトースト。酸は弱い。完全に酸化して逝ってはいないが、既に下降に入っている。これから数年の間緩やかにエネルギーを放ちながらワインは逝くだろう。PmOではなくこの特異なVTに在って補酸せず作った為早期酸化が起こったと思われる。
このワイン、確かに出来は良くない。端的には失敗。GCという事を考慮すれば尚更だ。ただこの特異なVTに何故この老練な作り手が補酸をしなかったかを鑑みると、このワインは違う意味を持って来る。特に名を挙げないが有名ドメーヌの幾つもが補酸をした中、何故彼は補酸をしなかったのだろう。それはこの作り手が全てのVTを個性として捉えていたからだと思う。その昔ブルゴーニュを頻繁に訪問していた時「ブルゴーニュでは良いVT, 悪いVTは無い。VT一つ一つが個性だ。」ということを何度も聞いた(彼も言っていたように覚えているがが確かでは無い)。また「人は葡萄と共に笑い、葡萄と共に泣く」という言葉を何度も幾人かの人から聞いた。難しい年にあって敢えてlassez-faireにワインを作る。このvigneronは葡萄と共に泣くことを選んでこのワインを作ったのだ。そう思いながら、このワインを飲むと、このワインが少し愛おしく思えて来た。
出来の悪い子程可愛いという諺のように。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2018/09/09 01:54:06 AM
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