Terroir

近頃巷で不倫（というかほぼ買春に近い）で騒がれている芸人がいるが、彼を見ると快楽と幸福を履き違えたなと思う。快楽と幸福の違いは多分fine lineなのだろうが、私的には快楽が一過性、刹那的なピークで有るのに対し、幸福は持続的で緩やかなplateauと言える。彼も結婚して子供が出来たのなら快楽を追い求めるのを辞め、幸福を追求すべきだったのだろう。

ワインでも同じで有名生産者のグランクリュを追い求めている人も同様だ。先日も書いたが究極的にはアッパー系は一時のめくるめく快楽、ダウナー系は癒しによる満たされた幸福感という事だろう。駆け出しのワイン通がアッパー系を追い求めるのはまだしも、歴も長く還暦に達したワインファンがまだ高価なワインを追い求める姿を見ているとダサさを通り越して、餓鬼道に堕ちているとしか言えないだろう。これを救えるのは他者では無く自己の悟りだけだ。その悟りに達するまで快楽のワインを追い求めて彷徨うのだろう。

閑話休題、このワイン、単刀直入に美味いなと思う。トーンはまだ高さを保っているが、セパージュの輪郭はぼやけ、透明な球体で軽い為、浮遊感がある。その球体の中に果実や酸味が溶け込む。薄いのだが、薄旨という言葉で括れない複雑さも有る。いや、寧ろこの複雑さは絢爛豪華で高揚感たっぷりでテンションが高くなるアッパー系のグランクリュとは違う幽玄の世界を醸し出している。そしてその幽玄の世界が緩やかな幸福感と共に飲み手を包みこんで行く。

特級や優れた一級はワインが素晴らしいが故に飲み手に体力を要求し、熟成する頃には飲み手はそれだけの体力が残っていないように思う。逆に村名やレジョナルは若いうちは単純で薄く、奥が浅いワインだと思う事が多いのだが綺麗に熟成するとその薄さの故に絶妙の浮遊感が出てくる。この辺が極めた通だけが知るワインの本当の幸福なのだろう。

件（くだん）の還暦ワイン通も悟りに達してこの辺のワインを極めてもらいたいと思うのだが、残念ながら今世では無理なのかもしれない。何故ならこの辺のワインではエチケット知識に溢れる若い女性の気を引けないだろうから。

まあ、その辺も含めて悟って欲しい気がするが。