テーマ:☆小説をかきましょう☆(102)
カテゴリ:作家
そういった激しい孤独に苛まれながら、漠然と愛情を求めて得られないでいた。苦痛は薬物で散らすしかなかった。風邪のような気だるさが、二人を囲んでいた。彼女は心を閉じてしまった、すべてに対して。彼女の心は開かない、二度と。
愛を信じない体になった。男は消耗品の使い捨てだ。DISPOSALレンズのように新しいPACKAGEを開けて、使いかけの男をダストボックスに放り投げた。未練はささくれだった指先の生皮のように、雨の夜をひとり傘もささずに歩いた。 19年間で彼女にプロポーズした男は10人、二十歳になった夜、タカハシにキスされた。そして、今夜はタカハシは知らない女達と飲み歩いている。彼女は銀座のバイトで、しらない社用族のドンペリを舐めてみる。 彼女の少女の面影が、女性の美しさの輝きに薄れる瞬間、フォアグラをフォークに刺して、匂いを嗅ぐ彼女のエクスタシ。 あるいはブルゴーニュから空輸されたオマール海老の腹にナイフをいれる、強い目線の狩人、真剣な表情の獲物を狙う目つきのエロス。 タクシーのバックシートで、彼女の屈み込んだジーンズの背後から覘いた美しい背中と愛らしい下着の清楚な印象。 すべて禁断の、そういったマチュアな時間の、ためらいや、うごめく欲望の視線を、垣間見る大人の時間。 彼女はシャンパンのグラスの向こうの、落ちていく西日に照らされた東京の夕暮れに、この人が父親だったなら、私の毎日はどんなものなのだろうと、ふと考えてみた。彼と父の共通したところ、ぜったいに抱かれることが無い関係において。 中秋の名月の、次の夜は、雨夜だった。 私は二の橋の君が、私を受け入れてくれないことの理由に、憑かれていた。 君は永い不倫にいて、別れてくれないその男の、誠実な家庭を大切にするまともさの変化に、君が癒した男が、今度は君を癒すべき時間に、家庭を顧みることに、裏切りを感じていた。そんなときに私に会ってしまった。 ある長すぎた夏の、夜明け前から朝にかけて、私たちは電話で話をした。 その時間BEDで横になり、睡魔のせいだと感じていたが、彼女の人を愛せなくなっている状態の、すくなくとも私を愛していないことを誠実に伝えようとする姿勢は好ましい印象を受けたし、そんな夜明け前の時間に彼女が電話をしたことも、日常性を逸脱した気まぐれなのかなと感じていた。 その電話で彼女は彼に会いに行くことを諦めた。 すぐにでも会いたくてそばにいてほしいという気持ちが、彼から伝わって来なかった。 受け入れていなかったのは、彼女でなく、私だった。 その感情は、押し殺すことによって増幅していることを彼女は感じていた。 その男を愛していた筈だった、彼女は19才だった、彼を自分だけのひとにしたいから、処女のふりをした、その若者は若すぎたために、そういった愛らしい嘘にさえ過敏になっていた。 「初めてだったの」 その言葉は、彼がその行為の中で感じればそれでいい筈だった。その言葉で何を伝えたかったのか理解できなかった。 気がつくと彼は27歳になっていた。 彼が始めての男だったかどうか、いまとなっては確認する方法などないし、それは彼の細胞の1単位が記憶している、夥しい情事の一つに過ぎない。それは病的な潔癖にすぎす、淑女の処女性に関して、一人の男を愛し、その男以外の男を知らずに一生を終える女の人生の幸福についての幻想に過ぎなかったのかもしれない 結局、酔った中年男が、夜明け前の寂寥とした時間に、その体を必要としながら、耐えているというより、だれか代わりの体を求めている自分に吐き気がしていたのだった。 そのセルロイドの人形は、冷たい海に流れて、浮いたり沈んだりしながら、夜明けが始まりかけた東京湾に、浅い眠りを貪っている。 京都駅の待合室では、夜通し流離って疲れ果てた浮浪者が、暖房の効いた冷たいベンチに新聞を広げ、束の間の眠りに落ちた。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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