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恋のような 愛のような

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山崎貴之

山崎貴之

Category

Feb 2, 2007
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カテゴリ:モデル系

 「いとしいのよ、ただあいたいのよ」
 「ぼくもおなじさ」
 「あいにいくわ」
 「だめだ」

 多忙を境にして、男と女、飽和する直前に、躊躇する、瞬間。

 「わたし、飽きたの」
 「なにに?」
 「あなたのいない東京」
 「そう」
 「あなたのかわりをさがしたけど、無理」
 「そう」
 「ねえ」
 「なに」
 「東京にいつかえるの?」
 「口説くのか?」
 「口説かれないのも寂しいでしょ」
 「まあね」

 朝焼けの窓辺で、キスをした、その感触を、指先がなぞる。

 「結婚しようか?」
 「そうしましょう」

 そして、ぼくは電話を置いた。

 受話器を置いて、その電話を眺めて、すこしため息をついた。


 目がさめると、その電話機が目にはいった。記憶の中の会話を思い出そうとして、そっと着信をみた。それはあった。どうやら僕は、また結婚するらしい。




「なんで、だまってるの?」

 眉毛のない妻は、語気あらく、港区の高層マンションのダイニングで、さめた冷凍の味の素餃子を、箸の先でころがしていた僕に聞いた。

 この女とはじめてあったとき、眉毛はたしかにあった。

「え?」
「会話がなんでないのよ」

 またはじまった。これに乗るとえらいことになる。

「ちょと疲れてるんだ」
「いつもでしょ、実力以上の仕事をするから、つかれるのよ」

 ぼくはだまりこんだ。そっとその表情を見ると、中空でとまったままの、箸の先は、ベイブリッジの先のフジテレビあたりを指している。

 この女は、いい笑顔をしていた、恋におちたころ。そしてその笑顔があれば、なにもいらないと思った。むろん愛を感じたのは、昼下がりの、僕のへやに、伊豆小脇園のお惣菜弁当をもってきてくれたからだけではない。

 あのころの僕たちは、月の昇る南向きの寝室で、月が西にかたむくまで、愛し合ったはずだ。むしろそれは愛でなかったのかもしれないが、そうやってひそやかになにかをなめあって、むしろ、さかりについて、さかっていただけなのかもしれない。

 どうしてぼくはこう、女に甘くみられるのだろうと、ゴマ油をたらしながら思った。こういった会話のない無言な拷問の食事時間は、いずれにしろ、多忙な僕が、きまぐれに、銀座に飲みにいかないで、ふらふらと、自宅なんかに帰ってきたのがいけないのだろうか。


「ねえ、やくそくのエルメスどうなっているの?」

 話はようやく本題になる。それはこのあいだ、銀座のクラブで飲んだ。そんな本当のこと言ったらむしろ、危険なことになる。

「なかなか入庫しないらしいよ」
「コネないの?例の大使館の職員のお友達はだめなの」
「大使館?」

 エルメスは素敵だ、愛がこわれかけたとき、それを繕ってくれる。


「ねえ、約束のテファニーは?」

 もはやそういったことでしか、この女はぼくの愛を感じなくなっていたが、いっそもう愛していないから、話すことなんかなにもないといえばいいのか、ぼくは躊躇いながら、眉毛のないその女、つまり妻の眉間のしわをみながら。

「じゃ、土曜日にいってみよう」

 そう、その笑顔だ。場末の飲み屋の女に、安物のバラの花を届けたときのような。そうお前は不細工な女だが、それなりにいいところがあったはずだ。たしかに僕たちは月が西にかたむくまで愛し合った夜もあったはずだ。

「ぜったいよ」

 絶対!これを絶対的に、!

 彼女はフジテレビの方向にむけていた、箸を、ちょいと、味の素冷凍の空揚げを串刺しにして、ちいさなおくちにほうり込んだ。

 我が家はそういった味の素の、豪華な宴が、やがてプールされた生活費のぼくの銀行口座とともに、ぼくの妻は、いなくなり、家庭裁判所で再会するのだった。



 彼女がいなくなった、そういった夜の、僕はオスカーのスクールのうれないモデルをだきかかえて、その、深夜の高層マンションに、戻る、そして、慎重にその赤いハイヒールを寝室で脱がすと、眠ったふりのままの、売れないモデルは、赤い芦田淳のスーツのまま、僕のBEDに、よこたわり、ちいさくため息をつく。

 彼女のためにエビアンを冷蔵庫に、そのときに、置き去りにされた味の素冷凍餃子を視野の片隅に感じて、注文したままのエルメスの行方をふと思い、寝室にもどると意識のあいまいな彼女の、腰をうかして、着衣を脱ぐ手伝いを、確認すると、キスを始めたころには、ぼくはすべてもはや、そう、どうでもよくなっていた。


 深夜の朝焼けのまえのBEDで、僕は彼女に抱かれながら、もはやすべてどうでもよくなっていた。


     (注:これは日記ではありません:一部加筆、編集しました。筆者)





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Last updated  Feb 27, 2007 07:33:26 PM
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