昔から、音尾琢真氏の演技には定評がある。
演技が常に安定しているのだ。観ていて不安感がまったくない。
(ここが大泉氏と大きく違うところ?(笑))
音尾氏は実に演技の幅も広い。今回のCOMPOSERでも片鱗を見せたように、
イナダ組でもそうだが、子供の役から年寄りの役まで全てをやりこなしてしまう。
しかも何の違和感もなしにだ。
COMPOSERを観た方はお分かりだと思うが、「TEAM-NACS」は男5人しかいない劇団。
それこそ昔は、客演を頼み大勢でやっていたこともあった。
…が「ミハル」からは、男5人でやるスタイルを今のところたもっている。
なので、必然的に1人が何役もやることになるのだが、今回のCOMPOSERの、
音尾氏のカールと母親との一人二役の入れ替わりの妙技を観ただろうか。
ライティングも手伝い、見事にその2人を演じきっている。しかも瞬時に入れ替わってだ。
それを見た瞬間に、ぐうの音も出なかった。
あたかもそこにカールと母親の2人がいるかのような錯覚におちいったからだ。
正直鳥肌が立ったシーンだった。
音尾氏の場合、「演じる」という言葉よりも「その役になりきる」といったほうがいいかもしれない。
「水曜天幕團」の時もそうだった。
藤村Dに「ヤツだけは本物がやって来やがった!」と言わしめた。
確かにそうだった。あれを見た時から、
私自身にも「いつか音尾氏には時代劇をやって欲しい」という気持ちが芽生えた。
それが今じゃどうだ。NHKで「望郷」に出演し、今は金曜時代劇「秘太刀 馬の骨」に出演と、
数年にして着々と、しかも確実に力をつけられるやり方で、
役者としてのステップアップをしている。
前にも書いたことがあるが、あまりにも端整な顔立ちをしていると、
役者としては、役の幅が狭まってしまうというデメリットがある、ということもまた否めない。
作り手側が役者を使いづらいというのがあるのだ。顔が綺麗なだけでできない役ができてしまう。
音尾氏がどんな役でもこなせるというのは、その点でも当てはまるのかもしれない。
(ゴメン。琢ちゃん)
もうひとつ、私が印象に残っているのが、イナダ組の舞台「ライナス」
この中で音尾氏は江田くんと共に主役をやっている。
この話は、音尾氏演じる「父親役」が昔、母親から虐待を受けていたことにより、
その時の記憶を無くしてしまっている。それを思い出してしまう葛藤のストーリーなのだが、
(父親の子供時代の役を江田くんが演じている)
その中での音尾氏が、妙に印象に残っている。
記憶を取り戻す前から、普通の家庭のちょっと口うるさい父親なのだ。
記憶を取り戻した後も、普通のちょっと口うるさい父親には変わりなかった。
見た目は何も変わりないのに、でも心の中だけが変わっている演技。
あの演技にはこみ上げてくるものがあった。
本当に、いい役者になるぞ!と思わずにはいられない、それが私の中での「音尾琢真」である。
|