男の愛撫は乱暴だった。粗野で受け容れ難いものだった。
ようやく男は身体を起こした。
「ヤー・ラティーフ ! (神様、お助けを) 」
と男は呟き、ゆっくりと歩み去った。
ベルカシムは、咽喉の奥で笑い、
歩み寄って来て彼女の傍らに身体を横たえた。
彼女は眼で難詰しようとしたが、
そうする前から、無駄だとわかった。
たとえ二人が話し合える共通の言語を持っていたとしても、
彼は自分を理解してくれはしない・・・。
彼女は両手で彼の頭をはさんだ。
「なぜ、あの人にやらせたの・・・?」
彼女は思わず口にした。
「ハビービ(私のかわいい人)」
彼はそう呟いて、彼女の頬を優しく撫でた・・・。
ポール・ボウルズ 『 シェルタリング・スカイ 』より
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