犯罪不安社会
犯罪不安社会 誰もが「不審者」? (光文社新書) [ 浜井浩一 ] 2006年の刊行でいささか古い。 特にのっけの論文,犯罪統計については,今や全く別物になっている。 つまり2006年平成18年の数年前から警察は組織を上げて犯罪抑止に力を入れており,その結果今や犯罪発生件数はこの書物が書かれた当時よりもずっと少なくなってしまっているからだ。 だからその統計論は無視して本書を読んでほしい。 というよりその他の部分では,非常にためになる論がぎっしり書かれているのだ。 まず,鉄の四重奏, ジョエル・ベストは,マスコミ報道によって作られてモラル・パニックが,市民運動家,行政・政治家,専門家の参加によって,一過性のパニックとして終わらずに,新たな社会問題として制度に組み込まれ,恒久的な社会問題として定着していく過程を分析している。 彼は、これを限「鉄の四重奏」(直訳すると鉄の四角形)と呼んでいる。 マスコミが問題を探し出して報道し,市民運動家が社会運動の中でこの問題を取り上げ,政府に対策を求め,行政・政治家がこれに対応して法律等を制定し,医学・法学・心理学などの分野の専門家が,学問的な権威としてこの問題を解釈するという一連の作業が,パニックを超えた恒久的な社会問題を作り出すとベストは指摘している。 (略) 日本においても,おそらく治安悪化神話の解消のためには,まず治安悪化の根拠となっている犯罪増加について正確な情報提供を行うこと,警察に対する信頼感を回復することなどが重要だと思われるが,同時に治安悪化神話の生成及び確立に大きな役割を果たしているマスコミ,市民活動家,行政・政治家,専門家の「鉄の四重奏」の絡みを一つ一つほどいていく必要がある。というもの。 治安悪化神話の大元が,鉄の四重奏(マスコミ,市民活動家,行政・政治家,専門家)によって作られたものだということが明らかにされたのは,犯罪論においては輝かしい発見と言えよう。 犯罪からいかに身を守るかについては, 代わりに関心を向けるのは「場所」である。 (略) そのようなアプローチは「犯罪機会論」と呼ばれる。 犯罪機会論は犯罪の機会を与えないことで,犯罪を未然に防止しようとする。 特徴的なのは,この理論は犯罪者を特別視しないことである。 犯罪者とそうではない人間との間に違いはない。 どんな人間でも機会があれば犯罪に及ぶし,また機会がなければ実行しないと考えるのだ。 それゆえどんな人間にとっても犯罪に及びにくいような「環境」を整えようというのが,犯罪機会論の発想にほかならない。とする,犯罪機会論がなにより説得力がある。 この論によらずして不審者対応訓練を何度しても効果が上がらないことは明白だ。(8/10記)