085771 ランダム
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俺とユーロとC.D.と・・・(何

恋は何時になって始まるって訳でも無い。
突如として見た瞬間に始まる恋だってあるし、
次第にその性格が明らかになって始まった恋もある。
突然降りてくる幸運に恵まれた少年少女達は、お互いを知り、そしてお互いを深く結びつけるようになっていく。


そう・・・これは、天が仕組んだ「いたずら」なのかもしれない。


私は既に、中学三年生だ。
中学校生活も順調に進み、難なく高校へと進学出来るという意識は
次第に高まってきた。勿論、私自身がそう思っているからこそ。

しかし、このような時期になって、まさかあんな事態が起こるとは・・・

ある晴れた昼下がり。昼御飯も食べ終わり、昼休みになった。
皆は教室内・廊下を問わず駆け回り、いつも通りのドンチャン騒ぎになっている。正直、あまり好ましくはないんだけど・・・ね。
他の子達がワイワイ騒いでいる中、私は一人窓からみえる冬色がかった景色を
ずっと見ていた。もうすぐ春だなあ、なんて思いながら。

ふと窓から見える図書室に、一人本を立って読んでいる男の子を見つけた。
背は小さめで、大柄の私からすると非常に愛らしい容姿だった。
すると彼も私を見つけ、そっと微笑んでくれた。

私は、非常に強大な何かに襲われた。
いや、襲われたというよりは、むしろ衝撃を受けたと言ってもいいのかもしれない。
ともかく胸が熱くなり、身体中から汗が出てくるのだ。

(ま・・・まさか、私が、そんなワケ・・・)
私は焦った。・・まさか、あのコに私は恋愛感情を・・・?
多少の惑いを見せながらも、五時間目の授業のチャイムが鳴ってしまった。
私は困惑したまま、授業を聞いていた。むしろ、授業なんてどうでも良かった。

(今でも信じられないよ・・まさか私が、あの視線だけであのコを好きになっちゃうだなんて・・・)
確かに愛らしい容姿と可愛い顔ではあったが、私はそのようなコを求めていた訳では無い、と改めて考えた。
私は大柄だし、あまり皆から好感を持たれるような女ではない。
元々男なんかには興味無かったし、第一キモいのが多かったし。
でも、あんな可愛いコを見ただけで胸が熱くなるなんて・・・やっぱり、私ってそうなのかなぁ。
改めて私は考えてしまう。でも、考えていただけで始まる事なんて無い。
私は『今だけはっ』と思って、考える事を諦めた。

数日後。雪も溶け始め、そろそろ春がやって来る。
そろそろとは言えないかもしれないけど、確実に春は来ている感じが受けられる、そんな景色だった。
私は今日の準備をバッグから取り出し終わると、のそのそと廊下を歩き始めた。
いつもと変わらない廊下のハズだった。

いきなり走ってきたのか、後ろにやってきた何かに私はぶつかった。
その余りにも強い衝撃が故に、私は転んでしまった。
『あいたたた・・・』
良くある台詞を吐いてみる。もっとも、これが痛い時に利用する典型的な台詞である事を承知しておきながら。
『何やってんのよっ!ちゃんと前くらい・・・って、え?』

あの時の、男の子だった。

(・・・こ、こんな所で会うだなんて・・・)
私は予想だにしていなかった。こんな良くある廊下の良くある場所で出会うだなんて、何かのドラマじゃあるまいし。
私は、改めて自分の肌をつねった。
『あいたっ!』
・・・確かに現実だ。私は信じられないようなこの情景で、彼と出会ってしまったのだ。
『ご、ごめんなさいっ!僕が・・・僕がこんな事を・・・!』
彼はちょっと泣き顔で何度か謝っていた。今にも涙が溢れそうな、罪を感じさせる程の可愛い泣き顔だった。
私はしゃがみながら、謝っている彼を叩いて、そっと言った。

『いいのよ、その位で何度も謝らなくても。
ただ、私は廊下を走る時に気をつけて欲しいだけ・・・分かった?』

それは、私自身が自然に出した一言だった。
でも意識さえもしていないのに、どうしてこんな優しげな口調で私が男の子に対して言えるんだろう・・・?と疑問にも思った。
元々、私はそんな好きでもないのに、このコだけにはこんな感じで言えるだなんて・・・私は、ちょっぴり不思議な気持ちになった。

『ほ・・・本当にスミマセンッ!』
それでも彼は謝っている。その積極的な所が、私は好きだった。
ただ謝り続ける彼を見ているだけでは可哀想だと思い、私は彼から手を離した。
『別にいいから、ね。』
すると、彼は突如としてまじまじとこちらを見つめ始めた。
『・・・どうしたの?私の顔に、何か付いてる?』
多分そんな感じだろうと思ったら、彼は予想外の台詞を出してきた。

『お姉さん、可愛い・・・』

一瞬(はぁ!?)等とも思ってしまった。物も言えなくなった。
私から好きになったコを、あっちから可愛いだなんて言ってくれるなんて・・・
私はちょっぴり赤くなった。・・・だって、可愛いなんて言ってくれたのが、初めてだったから・・・
そう言ってからブランクを空けて戸惑っている彼に、私はそっと話しかけた。

『・・君の方が可愛いと思うよ。その愛らしい容姿に顔、どれをとっても
素敵だと思う・・私なんか、まだまだ掛け離れた感じだと思うな』

私はそう言うと僅かに微笑み、廊下を後にした。

静かながらに一時間目のチャイムが鳴る。
その音は、大きく、そしてまるで私の恋の始まりを
表しているようにも聞こえた。

私の胸は授業中であれど、常に一杯になっていた。
考えてみれば何故あのようなコを私が好きになってしまったのか
以前として気になって仕方が無い。
でも、彼が私の顔を見て『可愛い』と言ってくれた事を聞くと
このままでも良いんじゃないのかな・・・なんて思う。

そうこうしている内に一時間目は終わり、チャイムが鳴った。
私はまた廊下を歩いていると、またさっきの男の子に会った。
今度は偶然とかいう訳でもなく、私に対してモジモジしながら何かを隠している。

『そんな恥ずかしがらなくてもいいのに・・・見せてごらん』

私はそっと優しい口調で、彼に話しかけた。
彼はそう言うと恥ずかしがりながらも、私にある一枚の紙を渡してくれた。
その紙の内容は、まるで私の考える事と一致しているようにも見えた。


『僕と、付き合ってくれませんか?』


あまりに正直で、素朴で可愛い彼ならではのこの文章。
私は微笑み、自らの幸せを祈りながら、持っていたペンでこう書いた。

『いいよ』

彼は恥ずかしがりながらも、私にそっと笑いながらこう言ってくれた。

『あ、有難う御座いますっ!』

私はこの時、初めて彼がいる事の暖かみを知ったような感じがした。
そして私はちょっと恥ずかしくなりながら、舞う桜を見てこう思った。



『恋は、まだ始まったばっかりなんだよね・・・』



桜の木に包まれた学校は、まさに春景色であった。

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ちょっと後半でのノびが足らなかったかな?なんて後悔した作品^^;
一部に他作者さんからの影響が多少入ってしまったような感じがして
ちょっと流されすぎかな、なんて思いました・・・orz
出来ればもうちょっと長めに、伸び伸びと書いてみたかったのですが
まあそこは一発小説だし、致し方ないかな・・・って事で。

2006年4月18日製作


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