第21話『Dream』私は見てしまった。泰斗が私の前から、スッと消えていく情景を。 それが夢か現実か、当初は区別さえついていなかった。 そこにある本当の真実か、あるいは裏にある「何か」が 私をその情景に留め続けた。 何が訴えたかったのか、私にはさっぱり分からない。 それでも私は、消え行く泰斗を見続けるしかなかった。 私はその夢を見て以降、泰斗が心配で心配で仕方が無かった。 何か容態に変化はないか、私の事をどう思っているか等、とにもかくにも 泰斗が心配で堪らなかった。 どんな時でも一緒にいてくれて、泰斗が家出した時だって私だけには 心配をかけないような言葉をかけてくれた泰斗が、いきなり私の前から 姿を消すなんて事は無いだろうと考え続けていた。 それでも夢を見たショックに襲われた体は震えが止まらず、心がどうであれ やはり体は泰斗を心配していたのだ。「絶対に何かある」とでも言うかのように。 私は自分の体を信じて心を切り替え、逃げるような「安心」から捨て身のような「心配」へと方向を変えた。 言うならば90度、いや180度だ。私は全てを捨てるかのような気持ちで 泰斗への気遣いを増幅させ、泰斗の身を毎日心配し続けていた。 そんな事をやり続ける私を見て泰斗は奇妙そうにこちらを見つめていたが 私はそれでも「泰斗がいなくなる」という事実を認めたくないが故に、意地でもと泰斗に気を配っていた。 それから一週間。悪夢は毎夜毎夜続いており、私の内にあった「心配」は より強い「不安」となって心に表れてきた。 見る度にその透明度を増し消えていく泰斗。目の前にある情景全てに 確証が持てなかった私も、流石に何度も見ていくと「これが現実なのか」と 思えるようになってきてしまった。 迫り来る不安。奪われていく平常心。強大なる見えない恐怖。 私は最早何が何だか分からなくなり、夢が現実なのか現実が夢なのか、 それさえも分からなくなっていた。 「この世界は何処?私が今いるのは、夢?それとも現実? 分からない・・・誰か・・・誰か教えて・・・!」 私の顔から涙が頬を伝い、ぽつっ、と床に落ちた。 世界が何だったか、それ自体が分からなくなった私の目の前には、 「夢」と「現実」しか脳内に存在しなくなっていた。 情景説明さえも上手くいかない程に強い恐怖がのしかかる毎日に、 流石の私も精神的に耐えられない「何か」があった。 私は泰斗に聞いてみようとも考えていたが、それが夢の話だなんて 笑われる事にはやはり恥ずかしさがあり、聞き出せないままでいた。 いくら友達であっても、笑って嘘だと済まされてしまう話なんて 聞こうと思う人間自体が少ない。でも、もしそれが 本当だったら?泰斗は一体どうなるの?と考えてもみた。・・・でもやっぱり 嘘で終わってしまう話なんて誰も聞いて嬉しいなんて思わないし何とも感じない。 だったら、この夢は嘘なのかと考えるようにもなった。しかし 何事にも信じる心を持っている私にとって、特定の出来事を「嘘」と 意図的に思わせる事自体が困難となっていた。その為、やはり私の脳裏には この夢は本物の情景なんだと記憶されるようにもなっている。 私は泰斗が消えていく事が嫌だった。消えて欲しく無いと心から願っていた。 「一緒にあんなに遊んで、あんなに仲良くなった私の唯一の恋人。 友人である心菜をも犠牲にして、手に入れた本当の恋人。 もう失いたくない、もう離したくない・・・ それでも、夢はやっぱり真実を映し続けるの・・・?」 私は自分の心に素直に聞いてみた。答えなど返ってくるハズもなかった。 自分の内に存在する声だなんて、現実で起こり得る訳が無いと、そこまで 単純な自分が馬鹿に思えてくる程だった。 でもやっぱり夢が映し出すあの情景は、そこに在り続ける真相なのだろうか。 私は気になって気になって仕方が無かった。 それから数日後、私は帰り道でばったり心菜と会った。 心菜だったら信じられるかと、私は正直にこれまであった事実を全て話した。 泰斗が消え去っていく夢を見た事、それについて私が思っている事、 そして見る度に泰斗の透明度が増していくという事を・・・ 始めの内は心菜もそんなに信じてくれてはいなかったけれど、話を 続けるにつれ、私の思いが伝わってくれたのか、心菜も真剣な眼差しで 私の話を聞いてくれるようになった。 『・・・へぇ、そんな事が飛織に・・・ でも泰斗君はその事実だって全く知った顔なんてしてないんだよね?』 『うん、そうなんだよね。 普通消えるんだったら泰斗も気付いてくれると思ってるんだけど・・・』 『そういう時に限って本人に出てこない、っていうパターンもあるじゃん? 多分泰斗君も、そこら辺のイメージに当てはまってるんだと思うよ・・・』 『・・・うーん、そうなのかな? じゃあ、やっぱり夢は、夢って認めた方がいいのかもなぁ・・・』 『でも飛織の言ってる事を聞いてる限りだと、そんなイメージは微塵も無いよね。 ちょっと言い辛いけど、まるで本当に起こったような感じがする・・・』 『・・・』 思わず私は、心菜の一言に黙り込んでしまった。 心菜自身は私を心配して言ってくれたんだと思うけど、それでも 信じ切ってしまっている事実をより鮮明にさせるかのような 心菜の一言を聞いて、その不安は確実に高まった。 『え・・・?ゴメン! 飛織がもっと心配になっちゃうのは分かってたけど、それでも 友達だから本当に思ってる事は言っておかないとマズいかなーって・・・。』 『ううん・・・いいんだよ。 私ね、ちょっとだけ夢の意味が分かったような気がする・・・』 その時、私は夢の意味を間違えているのでは無いかと思っていた。 これまでは「泰斗が消える」だけだった。別に殺されたり天へと 昇っていく訳でもなく、ただただ私の前で消えていくだけだった。 『実はね、泰斗が消えていく時の顔はそんなに怖い顔じゃなかった。 別に嫌で消えていく訳でもなく、強くて優しげな、今の泰斗と ちょっと似ていて、ちょっと違う感じだったの。』 『・・・ちょっと似ていて、ちょっと違う?』 『まるで大人びたような感じの、背の高い泰斗だった。 私を優しげな目で見つめてくれて、そっと守ってくれそうな 大きくて、暖かくて、包容力のありそうな・・・そんな感じがした。』 『へぇ・・・っていう事は、まさか・・・』 『数々の人生における困難を乗り越えて、辿り着いた 「新しい自分」へと変わっていく泰斗を、私は優しげな目で 見送ろうとしていたのかもしれない・・・。 何度も見たのは、怖い訳じゃくてそういう時がいつしか来るんだと、私が私に教えたかったのかも。』 『・・・泰斗君も、いつしか飛織の夢みたいになるといいね。』 『だから私は、夢で見た泰斗を目指していく。 あの時に見た背中は、誰よりも温かくて、誰よりも強そうだったから。 今は夢のままでいたい。いつしか夢に向かう泰斗を見て、私も成長して いく事が、今見続けられる「未来」だからこそ・・・』 『・・・飛織・・・頑張ってね、未来に向かって。』 『うん。私も、出来る限り頑張ってみるよ。』 あの時、「夢」という情景で見られた今までより一層成長した、泰斗の姿。 強く大きく、暖かみを持った背中は、私の将来を予見させるモノだった。 でも私は、今はまだ夢でいたいと思う。 目指すべき未来が、私と泰斗にはあるんだから・・・ --------------------------------- うひょひょー!夢ですよ!夢!アーヒャヒャ(狂 いつも通りラストがちょっと中途半端で不透明、かつ上手くまとまっていませんねorz まぁ、夢ってのは見方によってその意味も変わるんですよ、って意味っすね。 ちょっと正当派過ぎるしそんな意味ない話かも・・・^^; 2006年5月27日製作 |