第22話『修学旅行』第2部ショックを受けつつある私。幸せを求めているようにも見える私。 改めて不安に陥って、考え直してみる私。 ・・・でも私は、私自身でしかない・・・。 「変わってしまった」というショックに襲われながらも常に「自分らしさ」を 基調として生きてきた私。今であってもそのスタイルに変わりは無いが、 何故私が変わってしまったのか、その理由は誰も知らない。 学区がほぼ変わらなかった小学校・中学校と比べ、高校は大規模であるが故に 生徒数も多く、また多くの地域から生徒が集まってくる。 そんな中での私の胸の内に隠された「不安」はやがて姿を変え、ついに 私自身をも襲ってきた・・・その証として、私は変わってしまったのかも しれないと、考えるようにもなった。 行くのが、ちょっとだけ怖くなった。 私は私でないような感じがして以降、自分が「ここにいる」事自体が怖くなった。 身震いをしながら恐怖感に襲われてる私が、どうして世にいるのか考えるように なってからは、尚更私の身は重くなった。 いくらやっても治らない私は半分諦めかけてもいたが、それでも運命とも 言うべきあの日は近づいている。 それでももう一人の私は反論を繰り返し、私に襲いかかってくる。 「決して行ってはいけない」と、私に何度も言い聞かせてくる。 まさに悪魔と天使、と言わんばかりの状況だったが、私はそれでも 今で言う天使の言う事に沿って、じっとその日まで何も考えない事にした。 途中経過は予想通りだった。案の定、多少変わってしまった事は否めないけれど それでもこれまでの自分と同じように過ごす事が出来た。一日一日がまるで亀のように 遅かったが、そんな毎日の中から本当の「自分」というものを少しずつ頭の中から掘り出せて来た、というのは 元の自分に戻るという行為でありながらも、今の自分にとっての「成長」である事は私は分かっていた。 ・・・しかし、残すところあと2日、という所で私に再び災いが襲いかかる。 そう、何に衝動を受けたのかは自分でも分からないが、私は再び変わり始めていたのだ。 今まで自分に何も関係ないかと思っていたもう一人の「私」。・・・それが、今になってこんな事態を 引き起こす原因となるとは、本人である私でさえも予想だにしていなかった。 その日の夜、私はいつもの時間に帰路に着き、夕方の通学路を歩いていた。 人並みも風景も、全てがいつも通り。 ・・・ただ違うのは、私の中にある「性格」だけだった。私はそんな小さな変化だけだと思って いたのにも関わらず、気がつけば変わってしまった自分に「何か」を感じていた。 嬉しいのか悲しいのか、それさえも分からない・・そんな不可思議な状況にいながらも、私は 「此処にいる」という唯一無二の事実だけは、ハッキリと受け止められていた。 『お~い!飛織ぃ~・・・!』 誰かの声が聞こえる。耳馴染みのある、暖かくてやさしげな女子の声。 まさかと言わんばかりに振り向いた時には、私を追って走ってくる心菜の姿があった。 いつもの明るい笑顔を振り撒きながら、私の前に近寄ってくる心菜。 心菜にとっての「通常的な行動」というモノでさえも、「憧れ」の対象として私は見続けていた。 『ん、心菜・・・?どしたの?』 明るく幸せそうな笑顔で、私の瞳をじーっと見つめている心菜。 その目には深い「何か」が引っかかっていながらも、表には輝く可愛げな目として 私の前にずっと現れ続けていた。 いつもの心菜とは多少違うような印象も受けたが、その顔に表れた「笑顔」はいつもの心菜そのものだった。 『いや、えっとねぇ、 さっき丁度飛織を見たから、何処行くのかな~?なんて思って・・』 『何処って・・・もう帰ろうとしてた。 まだそんなに歩いてないから、確かに此処からだったら寄り道して行っても悪くは無いと思うんだけど・・・』 そんな会話を交えながら、心菜と一緒に帰り道を歩いていく私。 何となく心菜がこれまでとは違った、ちょっと大人っぽい感じになっているのを見て 私は心菜までもが変わってしまったのか、という疑問を口に出してしまいそうになってしまった。 心菜は「変わる事」について非常に敏感だ。考えてみれば既に高校生という立場であり、 更に彼女は中3の時にはもう「失恋」を経験していた為、人一倍自分の性格を気にする癖があった。 そのせいか私に相談を持ちかける事も何度かあり、心菜は中3で泰斗にフられた事を、人前には 素直に表さないが、トラウマとなってしまっているようだ。 『・・・あ!そうだ!』 『ん?どうしたの?心菜・・・』 『あのね、私達の高校でも修学旅行ってあるんだけど、 飛織の方は、いつ頃くらいに修学旅行があるの?』 『あぁ、明後日だよ。 行く所は此処からじゃ結構離れてる・・・って当たり前か;;』 『え・・!?じゃあ私と同じなんだぁ! 大体此処から大分西の方のね・・・あ、名前忘れた・・・』 『西・・じゃあ、私と同じなんだね。 じゃあ、時期的には会える場所もあるって事かな・・・?』 あまりに偶然すぎて、私は疑いたくもなってしまった。大方行く場所は西の方で、おまけに 行く日まで全く同じだそうだ。こうともなれば何時しか会えるチャンスもあるなと、ちょっと 無理難題だとは思いながらも、私は信じてしまった。それまで不安だと思っていた「修学旅行」という 一大イベントに「信じるべき友」という言葉が加わった事により、不安は一気にかき消され、 当日までの日々を「楽しみ」として変えてくれる程の影響を私に与えた。 『じゃあ、当日が楽しみだね♪ 飛織と一緒に居られるなんて、考えただけでもう・・・!』 『か、考えただけでって・・・;; でも確かに、違う高校だもんね、私達って。』 『やっぱりね、私の行ってる高校って昔からの友達が少なくてさぁ・・・ お陰であまりクラスに慣れないまま行くから、私も不安だったんだ。』 『心菜もやっぱり・・・?流石に中学までは みんなが大体同じだったからね。いきなり変わると、ちょっとヘンだよね』 『そんな中で飛織が一緒だなんて・・・ 無理かもしれないけど、当日中にもし会えたら、ちょっと嬉しいかも♪』 『そうだね。じゃあ、当日までのお楽しみ、って事で・・・』 そんな話で盛り上がっている内に、家の近くまでやって来ていた私と心菜。 いつもの長い帰り道が、今日だけはかなり短く見えた。 どうしてか、友達と話をしている間の時間の経過は、いつもに比べてとてつもなく早い・・・ それは私が「不安」を乗り越えて、今ここに「幸せ」という名の空間を築き上げていたからなのかもしれない。 そんなちょっとした事を考えながら、私は手を振って心菜と別れた。 『・・・一緒かぁ・・・』 私はそっと考えた。もし私が心菜とすれ違い全く会えなかったら? 同じ日だとは行ったが、もし急な予定変更があったら? 私の中は再び疑問に埋め尽くされ、どれから答えていけばいいのかさっぱり分からなくなった。 これ程までの疑問と不安を抱えながらも、私はやっぱり行かなくてはいけない・・・ 友達がいるが故の「幸せ」と共に、裏切られてしまったら・・という強い「不安」が、私を覆い尽くした。 それでも当日会えたら、という事を考えるとそのような事情まで犠牲にしてもいいのかもしれない、と 私は考えてもいた。 『ただいまー』 私は家に帰って来た。いつもと同じ風景が、いつもと同じ時間帯に表れていた。 でも私の心の中は違った。いつまで経っても終わる事の無いような沢山の疑問が、私に押し寄せてきた。 朝と同じような心の「不安」。とてもじゃないけど、私は耐え難い状況になりつつあった。 これ程までの心の重みをもって、私は行かなければいけないのだろうか・・・? プレッシャーが重くのしかかってきた。私は自分がどうすればいいか、それすらも分からなくなっていた。 でも私は、「この修学旅行というイベントは楽しみの内の一つである」という解釈を自分にさせる事により 何とかこの心情を吹き飛ばす事が出来た。・・・でも、やっぱり残った「不安」は当日までには解消出来ない・・・ 私は取り合えずシャワーを浴びた。今までの疑問は、こうした体に対する刺激によって解消していけるのかも しれない、そう信じていた。勿論体が暖かくなっていく内に考えていた事が消えていくような感じがして、 私は再び「楽しみ」という感情だけを持って、シャワーから出てこれる事が出来た。 行くまでの時間で、「楽しみ」と「不安」に散々振り回された私・・・それでも 様々な壁を乗り越えて、「今」というこの現状にいる私。 私はとても嬉しげに、そして楽しげに歌を歌った。 今までに無いくらい、明るげでとても幸せそうな曲を・・・。 『・・何だろう、この風の爽やかさは・・・』 私は改めて、「不安」が吹っ切れた時の本当の「楽しさ」を知った。 爽やかさを求めてベランダで歌を歌う私の姿は、自分で言うのも何だけどとても幸せそうだった。 残る「不安」はあるだろうけど、今の私には「楽しみ」しか信じられない・・ 嘘とも言える「幸せ」の中で、私はただ歌い続けていた。 ・・・私は、今が本当に幸せだと信じていたいから・・・。 ------------------------------ いやー久々っすね。一ヶ月越えの更新ですよ;; 最近書いてなかったんで妙に文章にヘンな部分があったりやたらと不透明だったりしますが、お許し下さい^^;; これでも頑張ったのに・・・なんて思ってたりもしますがやっぱり自分の才能の無さが体にしみてきますorz 2006年7月9日製作 ジャンル別一覧
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