医学的にナンセンスな判決はもちろんだが、過剰な責任を求める判決も嫌になる。家で転んで怪我をするような人は病院でも転ぶし、家で誤嚥するような人は病院でも誤嚥する。病院で誤嚥して責任を問われるなら、家で誤嚥したら家族が責任を問われるのだろうか。
七日市病院で、のどつまらせ死亡 3400万円支払い命令
記事:毎日新聞社【2007年5月25日】
医療事故:七日市病院で、のどつまらせ死亡 3400万円支払い命令 /群馬
リハビリ入院中の男性(当時61歳)が病室で朝食のパンをのどにつまらせ死亡したのは病院側が注意義務を怠ったためとして、男性の遺族が公立七日市病院(富岡市)を運営する富岡地域医療事務組合を相手取り慰謝料など約4500万円の損害賠償を求めた訴訟で、前橋地裁高崎支部は24日、約3400万円の支払いを命じる原告勝訴の判決を言い渡した。
廣田泰士裁判長は「誤嚥(ごえん)により気道閉塞(へいそく)を起こすことは予見でき、医師や看護師には食事の制限や看視すべき注意義務があった」として病院側の過失を認めた。
判決によると、男性は脳幹出血の後遺症で左半身まひになり、02年12月に同病院に入院。介助者付きで粥(かゆ)などの流動食が食べられるようになったが、むせることも多かった。同17日、朝食にパンやフルーツなどを出され、看護師が不在の間に心肺停止状態に陥り、救命措置で一命は取り留めたが、意識は戻らず、約2年1カ月後に死亡した。
判決は「窒息が原因と断定できない」という病院側の主張を退け「誤嚥による気道閉塞と推認するのが相当」と判断した。
提訴から2年4カ月。傍聴した男性の妻(58)は「看護師を責めるつもりはないが、ここまで長かった」とため息をついた。「意識不明になる前の日、『たまにはご苦労様くらい言ってよ』と言うと、右手を上げてにっこり笑ってくれたのが最後だった。看護師の人手が足りないなら私が傍についてあげたのに……」と悔しさをにじませた。当時、妻と3人の娘は交代で毎日、見舞っていたという。
病院側は「判決を見ておらずコメントできない。控訴するかも白紙の状態」としている。【鈴木敦子】
高齢者や神経疾患の患者など、転倒・転落や誤嚥などのリスクの高い患者はたくさんいる。それらの患者に対して、危険を予見したきめ細やかな介護が必須なのだとしたら、人手はいくらあっても足りないだろう。
今はまだ過渡期だ。賠償責任を問われても、保険でまかなえば何とかなっている。でも、このような事例で高額な賠償金を得ることが可能であることが知れ渡れば、訴訟件数は増大し、保険料の大幅な高騰を招き、保険料は病院の経営を圧迫するようになるだろう。
予想されるリスクに対処せよと言うならしよう。でも、それならそれだけの金を出してくれ。いつもいつもハイリスクの患者にスタッフを張り付かせるだけの金を出してくれ。
安全には人手も金もかかるのだ。十分な体制を可能とする診療報酬も無しに、責任だけ押しつけられている現状は、医療側から見ると言いがかりとしか思えない。
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