医療報道を斬る

2008/12/29(月)18:37

行政の分まで頑張る必要はないのでは?

医療(399)

 ご多分に漏れず、私の勤務地近辺も救急医療が崩壊しつつあります。しばらく前に近隣の病院の代表者が集まり、話し合いが持たれました。幹事役の病院の院長が司会進行を行い、冒頭で次のように述べました。「二次救急から撤退する病院も出てきているが、行政は動こうとしない。各病院の現状と、今後の対応を確認したい。医療圏のニーズに応えるために、何が出来るか考えて欲しい」。  各病院の代表者は、後方病院さえ確保できれば出来るだけ救急患者を引き受けると言いました。その後方病院と目されているのは私の勤務先です。確かに24時間どの科の手術でも出来ますが、夜間休日は一度に一例だけです。どんどん送られても対応出来ません。もちろん労働基準法を無視して働く宿・日直医と、無料で待機当番をこなす医師をこき使った上での話です。  と言うわけで、院長代理で代表として出席していた私はこう言いました。「行政が何もしないのに、我々が頑張る必要はないでしょう。我々は出来ることだけをすればいいのです。出来ないことまでする必要はありません。無理をして訴訟や刑事訴追を招く危険に医師をさらすわけには行きません」。  救急医療が崩壊して困るのは、第一には患者です。次には職務怠慢を咎められる行政のはずです。病院は何も困ることはありません。バッシングを受けたからと言ってうろたえず、だったら救急をやめますと、どうして言えないのでしょう。  救急医療は病院が手を挙げてやる建前にはなっていますが、実際には行政から押しつけられているのです。日本で人口当たりの医師数が最も少ない埼玉県の医療事情も、崩壊寸前のようです。押しつけられても、出来ないものは出来ません。無理をさせれば一挙に崩壊するのでしょうね。 周産期医療 現場からの報告<上> 疲弊する医師 2008年12月23日 東京新聞   県は新生児集中治療室(NICU)の増床を目指しているが…  「二十四時間、三百六十五日の周産期母子医療センターとは名ばかり。それでも補助金をもらっているのかと問われれば、今すぐにでも県に指定返上願を出す用意はある」  本紙が県内の各周産期母子医療センターに周産期医療の現状をアンケートをしたところ、深谷市の深谷赤十字病院からの回答には悲痛な現場の叫びが書かれていた。同病院は県北地域で唯一、地域周産期母子医療センターに指定されている。当直を二人体制にしたいが常勤医師不足でままならない。「センターとして機能しているのは平日の日勤だけ」という。  県内の周産期医療は、設備が充実しリスクの高い救急医療ができる総合周産期母子医療センターに指定されている埼玉医大総合医療センターと、産科と小児科を併設し比較的高度な医療ができる地域周産期母子医療センター五カ所の計六医療機関が中核を担う。来年度には地域センターが一カ所増える見通しだ。  地域センターでは常勤医師は五人が多く、休日夜間の当直体制は多くが一人で対応している。埼玉医大総合医療センターは四人で当直しているが、それでも「三十六時間勤務はざら」(関博之教授)という。  厚生労働省の二〇〇六年の調査では、県内の産科医は出産適齢人口十万人当たり二七・六人と全国で二番目に少ない。施設面では今年四月一日現在、人口七百万人で総合センター一カ所、地域センター五カ所だが、東京都は人口千二百万人で総合九、地域十三、人口二百万人の栃木県は総合二、地域八。県内の医療資源がいかに貧困かが分かる。  「行政は、新生児集中治療室(NICU)と総合周産期母子医療センターを充足するための対策を放置している。妊婦に『野垂れ死にしろ』と言っているに等しい」と話すのは、埼玉医大病院(毛呂山町)の岡垣竜吾准教授。  県はNICUの増床を目指すが、医師不足で既存のNICUの運営すら厳しいのが現状といい、同病院の板倉敦夫教授は「設備を充実してもマンパワーが追いつかない。医師の養成はお金ではカバーしきれない」と、効果を疑問視する。  関教授は県内の施設、医師数不足を考えると「これまで救急の妊婦の死亡例が県内でなかったのは奇跡だ」と話した。ある関係者はつぶやいた。「厳しい勤務で医師が次々に辞めている。県内六カ所の周産期母子医療センターで、撤退する病院が出てくるかもしれない」        ◇  全国で周産期医療が崩壊の危機に瀕(ひん)している。もはや、一医師や一病院の努力で患者の命を守ることができる状況は超えており、国全体で医療を立て直さなければならないところまで来ている。一方で、救急搬送で妊婦の受け入れ拒否が各地で問題化するなか、県内では救命が必要な妊婦を原則受け入れる母体救命コントロールセンターが二十四日にスタートするなど、新しい取り組みも始まりつつある。県内の周産期母子医療の現状と課題を探る。

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