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カテゴリ:書評
見出し:“鹿島アンソロジー”の鬼っ子。
鹿島茂著『パリ五段活用』(中公文庫) 評価の難しい本である。ひとたび気になると、周辺の著作を一気に読み漁るのは私の悪いクセであるが、そうであれば当然、似たような話を複数の本で散見する破目になる。案の定、前半は著者の他の著作の使いまわしのような、代わり映えのない文章が綴られて退屈である。 ところが、5章辺りからいきなりトーンががらりと変わる。そもそも、この章を境に、まったく別の本が合本になっているような感じなのだ。少々回りくどくはなるが、前半の軽妙だが浅薄な使いまわしとはまったく異なる、冴え渡る分析的記述が押し寄せてくるのだ。ベンヤミンの“パサージュ論”などを軸に、パリという都市そのものが持つ五段活用、つまり言語的・物語的行為が生き生きと展開されるのだ。 それもそのはず、巻末の初出一覧を見れば、あちらこちらの媒体に寄稿したエッセイらの数々をまとめた本書、あとがきには編集者の妙、つまり、このつながりにくい固有のテーマを、“五段活用”というタイトルで括ったクリエイティヴィティに対して、著者からの敬意が表されているが、実に、こうでもしなければ一冊として成立はしなかっただろう。 実に、“鹿島アンソロジー”のキマイラ=鬼っ子的著作である。(了) パリ五段活用 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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