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カテゴリ:書評
見出し:怪奇小説傑作集に酔う。
G.アポリネールほか、青柳瑞穂、澁澤龍彦訳『怪奇小説傑作集4』(創元推理文庫) ハマり出すと、突き詰める性分である。怪奇小説傑作集、フランス編である。澁澤は解説に於いて、フランスは心理小説的なミステリは得意でも、所謂怪奇小説の生まれ得ない文化の範疇にあると述べている。それらを得意とするのは、“黒い森”のドイツや、ゴシック趣味のイギリスであって、それらの影響下(無論、アメリカのポォの影響も外せない)にあってはじめて、フランスに“怪奇小説らしきもの”が登場したと分析し、もって本傑作集の編纂には多大な労苦を要したと述懐している。確かに、集められた作品群には、正統ロマン主義的とも言い難いし、オカルティスムやグロテスク趣味とも完全に合致しうるものとも言い難いものもある。しかし、フランスという国家が成立する過程においては、人間の根源的恐怖心を惹起する血なまぐさい抗争も繰り広げられてきたのだし、カトリシズムの教化の歴史の中では、いわゆる土俗的信仰との混淆は回避できなかったはずである。こうした場所には、等しく怪奇なるものが生まれても一向不可思議ではないのではないかとも思ったりするが、所詮これは浅学な私の見立てでしかない。 出口裕之はまた本書の最後に、澁澤龍彦の仕事に対して賛辞を贈っている。曰く、フランス文学に通暁する出口をして「澁澤の訳で作品を読んだ」ものも多数あった、と。改めて、澁澤龍彦がいて良かった、と思う。フランス文学を日本語で読んで、美しいと思える。これ、最高の翻訳者を得たに等しい。 マルキ.ド・サドらしからぬ「ロドリゴあるいは呪縛の塔」のほか、バルベェ・ドルヴィリ「罪の中の幸福」など傑作も多数収録されている。 念のため、作品集をメモしておこう。 サド「ロドリグあるいは呪縛の塔」 ノディエ「ギスモンド城の幽霊」 メリメ「シャルル十一世の幻覚」 ネルヴァル「緑色の怪物」 ボレル「解剖学者ドン・ベサリウス」 フォルヌレ「草叢のダイヤモンド」 ゴーティエ「死女の恋」 ドルヴィリ「罪のなかの幸福」 カル「フルートとハープ」 エロ「勇み肌の男」 クロス「恋愛の科学」 モーパッサン「手」 アレ「奇妙な死」 ロラン「仮面の孔」 レニエ「フォントフレード館の秘密」 シュオッブ「列車〇八一」 ファレール「幽霊船」 アポリネール「オノレ・シュブラックの消滅」 モーラン「ミスタア虞」 トロワイヤ「自転車の怪」 カリントン「最初の舞踏会」 怪奇小説傑作集(4)新版 ■著作です:何のために生き、死ぬの?。推薦文に帯津良一・帯津三敬病院名誉院長。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2008/04/03 09:39:42 PM
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