2008/09/22(月)14:26
変則書評:塩野七生『ローマ人の物語』ゲージ
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塩野七生著『ローマ人の物語』(7)
勝者の混迷(下)(新潮文庫)
読破ゲージ:
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“役者”の時代、ガイウス・マリウスVS.ルキウス・コルネリウス・スッラ二幕目は、一枚上手の千両役者・スッラに軍配。共和制強化のためには共和国史上初のクーデターも辞さなかった男。保守のための過激。マリウス派粛清→マリウス派の仁義なきリベンジ→マリウス撃退、“民衆派”沈黙時代=ユリウス・カエサル揺籃期へ。「味方にとっては、スッラ以上に良きことをした者はなく、敵にとっては、スッラ以上に悪しきことをした者はなし」。フェリックス(幸運者)、スッラの墓碑。スッラの幸運は、死後は続かず。スッラが奪回した共和制の礎石いわゆる“スッラ体制”は、スッラ門下によってほころび始める皮肉。異例、特例の乱発。その先導者こそ、鼻持ちならぬ“偉大なる”ポンペイウス。英雄は、英雄の偉業を引き継ぐことより覆し乗り越えることをしたがるのか。混迷の種、「同盟者戦役」終結も、ポントス王ミトリダテスのちょっかいに端を発する「ミトリダテス戦役」、「セルトゥリウス戦役」、剣闘士たちによる奴隷の蜂起「スパルタクスの乱」が疼き続ける。当世の実力者クラッススと、旭日の勢いのポンペイウスの睨み合い。スッラ門下の反スッラ両名、背中で握手、期待された元老院の既得権益確保は一層遠ざかることに。ローマの混迷を救った英雄が、結局“古いローマ”の新たな脅威となる。自らの手で難局を乗り越えられない者は、常に言いなり。まだまだ牧歌的にロマンティックだったローマに、実力主義と弱肉強食という実利思考が忍び込んだ瞬間。戦闘に勝っても戦争に勝てない常勝将軍・ルクルス、コミュニケーション不得手。ミトリダテスを追い詰めながら戦争を終結できなかったルクルスの、「自分について来い!!」という自信が、兵士に我慢を強い、また兵士らの積極的な参加意識=「心の通い合い」を喚起できなかった、と。でもグルメ。中世的貴族主義のハシリか。ルクルスから大権を取り上げたポンペイウス、不遜なる才能によって、見事「ミトリダテス戦役」に幕を引く。有限実行には手も足も出ない。(了)
ローマ人の物語(7)
■「旅から、音楽から、映画から、体験から生死が見える。」 著書です:『何のために生き、死ぬの?』(地湧社)。推薦文に帯津良一・帯津三敬病院名誉院長。