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バベルの図書館-或る物書きの狂恋夢

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テーマ:お勧めの本(7380)
カテゴリ:書評2nd.シーズン
見出し:現代スペイン文学の至宝的作家によるアジな人間悲喜劇。
アルトゥーロ ペレス・レベルテ著、佐宗鈴夫訳『フランドルの呪画』(集英社文庫)
アルトゥーロ ペレス・レベルテ著、大熊栄訳『ナインスゲート 呪のデュマ倶楽部』(集英社文庫)
アルトゥーロ ペレス・レベルテ著、佐宗鈴夫訳『サンタクルスの真珠』(集英社)

 映画『アラトリステ』を観て、その原作者の初期作品を一気に通読した。はて中には、当時はそれと知らず読んでいた作品もあった(作品登場時期からすれば当然か?)。改めて、アルトゥーロ ペレス・レベルテが、単にミステリジャンルにとどまらず、現代スペイン文学の最重要作家の一人と目されているのがよくわかる。
 所謂美術ミステリに分類される『フランドルの呪画』であるが、美術ミステリの映画化が一大マーケットとなっている昨今、こういう小説こそ映画にするべきだ、と思ってしまう。無論、大ヒットした『ダ・ヴィンチ コード』シリーズのような、絢爛で演出的―ある意味騒々しい―な展開はないが、じっくりとしたコシのあるストーリー展開と、適度なテンポ、キャラクター造形の濃やかさにおいては、実に映画向きでもあると思ったのであるが、何もそれが名画(物語の中心となる15世紀初頭のフランドルの巨匠ファン・ハイスの名作『チェスの勝負』を是非観ていただきたい)をめぐるミステリだからではない。
 「誰が騎士を殺害したのか?」。名画に隠されたメッセージ。描かれたチェスの戦局、それを見守る貴人たちの三角関係。仕掛けられた謎は、いつしか現代をも呪うかのように、女性絵画修復師・フリアを、現実世界のチェスという、駒取り=殺人ゲームへと巻き込んでいく…。
 私はチェスに明るくはないが、この作品で謎解きの手法として中盤から頻繁に登場するチェスのルールや手は、おそらくは意図的な作者の趣向であり、あるいは読者への目くらましで、それらを越えていないように思われる。なぜなら、それは物語を展開するエンジンでは十分にありえても、直接的には謎解きとしてはあまり機能していない。チェスが隠し持つ複雑さや知的遊戯性、錯綜する手順…それらを象徴として抽出し、本編にまぶすことで、事件の本質をはぐらかしているのだ。そしてまたチェスは、この物語の印象的な導入やプロットとの整合性の突き合わせに過ぎないのではないか。
 小説自体としては、エンタテイメントの要素ももちろん極上ながら、いつか読んだハードボイルド小説的なドライな文体に、きわめて繊細かつ詩情あふれるニュアンス(同国の作家カルロス・ルイス・サフォンの『風の影』にも通ずるメランコリックなメンタリティがある)が混在して、納得の行く手ごたえを感じさせてくれる。騎士の華、ロジェ・ダラスの悲恋には、死ではなく花一輪を。
 アルトゥーロ ペレス・レベルテの作品は、言うなれば人間ドラマだ。そこに描かれる人間関係が濃密で、時にテーマと力関係が逆転する。むしろ、人間とはどのような生き物かを、著者自身の目を通して伝えることが主題で、そのためにミステリや冒険活劇といったジャンルを活用しているのかもしれない。月並みだが、ジャーナリスト経験ゆえの人間観察力か。いささか感傷的な後味も、好感が持てる。
 かくて私は、ふたたび、『ナインスゲート 呪のデュマ倶楽部』を再読する。違うエディションで。『ナインスゲート 呪のデュマ倶楽部』に関しては、だいぶ前に読んだときより今回の再読の時の方が面白く、そのせいか、やはりリアルタイムに劇場で観た映画をDVDで見返したところ、それが全く別物だったのだと思い知った。当時は、小説と映画両方にまたがる、全体が醸し出す不穏な雰囲気、悪魔主義や秘密結社、そうしたダークで前時代的な世界観を最大公約数的に結び付けて、別段違和感も覚えず愉しんでいたのだろう。しかしディティールは大きく違っている。ジョニー・デップが今よりもへそ曲がりだった交感の持てた頃、映画『ナインスゲート』(監督はロマン・ポランスキー)で主役を演じたが、そうした特殊に脂の乗った役者が放つ仄暗いオーラのようなものが、あるいは小説と映画の断絶をうまく煙に巻き、かつ結びつけていたのではないか。
 ミステリとしては、この『ナインスゲート 呪のデュマ倶楽部』が、実は一番読ませる。また、愛書家の狂気という、ある種羨ましい世界、決して他人事ではない嗜好が、人間の悪魔的な側面を浮き立たせるのに大きな役割を担っていて、再読にあたってもその新鮮さは失われない。筆致から立ち上る、書棚の黴臭さや、装丁の革のすえたような甘ったるい薫りに酔い痴れながら、稀覯本狩猟家ルーカス・コルソとともにヨーロッパを股にかけた、“呪われた書物”をめぐる命がけの三銃士ごっこに興じていただきたい。余談だが、以前この『ナインスゲート 呪のデュマ倶楽部』を読んだ際には、エンブレムの世界にすっかり嵌り、アンドレア・アルチャーティ周辺を掘り下げた記憶がある。
 一応三部作最新作とされている(どのような括りで連作とされているのかはあまり明確にはされていないが)『サンタクルスの真珠』。前二作に較べて明らかにタッチが異なるし、描きたいことも、より人間模様にシフトしている。したがって、無論ミステリとしては一番地味である(もはやミステリ小説とも呼べないかもしれない)。が、結果としてこの作品が、私にとっては一番のお気に入りであった。
 重ねて、ミステリ小説としては非常に地味であるし淡白だ。物語の燃料となる殺人事件一つにしても、ショッキングに提示するがそれを深めるようなことをしない。ショッキングな事件=ことの発端は宙吊りにされたまま、物語の外部へと押しやられていく。そうして舞台の中心が人間模様へとスライドすると、殺人行為すら、ミステリという文脈ではなく、人間が時に陥る不条理な反社会的行動(断じて、犯罪を肯定するわけではない)として説明されていく(いや、不条理なのだから説明はされない。ただ、語られていくのだ)。そして、このj語り口に説得性を与えるのが、ここでもやはり、さらに筆力を増した綿密な人物描写である。
 小説世界を歩いていると、スペインはセビリアの街角で、出会い頭に本当にぶつかりそうなリアリティを備えた人物たちの織り成すドラマがなんとも忘れ難く、作品を読んでいるうちから読了するのが惜しい気持ちになる。
 特に『サンタクルスの真珠』では、主人公・ロレンソとナバホ警部が出色である(前二作では、主人公よりも脇役に、非常に深く個性的な人物たちが配されていたのだが)。さりげに、過去の作品で登場した人物が登場するのも心憎い。不遜なヒゲが嫌らしいフェイホ-警部や、あの如才ないモンテグリフォら、気になる名キャラクターを挿入する事で、過去二作品の登場人物がロレンソと同じ世界を生きている気持ちにさせるあたり、本当に芸達者である。
 ヴァチカンのコンピューターの法皇のファイルに忍び込んだ大胆不敵なハッカー。残された糾弾と告発のメッセージ。現代を生きるテンプル騎士団、ヴァチカン外務局(かつての異端審問所である)のロレンソ・クァルト神父の、クールでニヒルでハードボイルドな佇まい、そしていつの間にか失ってしまった信仰の本質(いや、現実)への目線を奪回する、調査という名の旅路にしばし浸りたい。
 アルトゥーロ ペレス・レベルテを読んだ、と言えることは、ちょっとした自慢や優越感だ。その意味が、三冊を通じてよくお分かりいただけるのではないだろうか。(了)


フランドルの呪画(のろいえ)


呪いのデュマ倶楽部


サンタ・クルスの真珠


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帯津良一・帯津三敬病院名誉院長推薦、出版記念講演・青木新門『何のために生き、死ぬの?』(地湧社)。





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Last updated  2009/09/01 05:14:52 PM
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