バベルの図書館-或る物書きの狂恋夢

2010/06/28(月)14:58

『ジャック・メスリーヌ / パブリック・エネミーNo.1』、観ました。

映画/エンタメ(256)

 これまたちょっと前の話ですが、ヴァンサン・カッセル主演『ジャック・メスリーヌ / パブリック・エネミーNo.1』、観ました。全然、違う映画なんですけど、スパイク・リーの『マルコムX』を思い出してしまいました。何でかな。  淡々としたタッチ。その影響力は、「一人の男が持つにはあまりに大きい」。恩師である後の仇にそう言わしめた革命家と、革命の何たるかを知らずに理由なき革命の真似事に溺れる犯罪者に、重ねる想いは共有しがたい。けれど、スパイク・リーとジャン=フランソワ・リシェの描き方に似通ったものがあるのでしょうか。  観てない映画と比較、ということはまずしないんですけど、多分本家扱い的な“デップ版・パブリック・エネミー”よりも、こちらの方が見ごたえがあるのではないかな。  なんかですね、もう最初から醸し出す厚みが違う。尺も長いが、無駄に長い訳じゃない。丁寧さ。執念。これは、やっぱりハリウッドとのスタンスの違いかなぁ。実は、この作品観て、逆にジョニー・デップの『パブリック・エネミーズ』、観るのが怖くなってしまいまして(ジャック・メスリーヌとデリンジャーでは、モチーフも全然違うので、いずれにせよやっぱり比較するものではないのですが)。ジョニー・デップも好きですから。  内容としては、あまり救いのある話ではなく、脱獄を得意とした、世界を股にかけた実在の強盗の話。伝記映画ですが、おそらくこのジャック・メスリーヌに共感する人はあまりいないでしょうね。ですが、この共感できないならず者に、どうしようもなく注目してしまう。この点こそがまさに、この『ジャック・メスリーヌ / パブリック・エネミーNo.1』が、単なる派手なアクション映画ではない所以ではないでしょうか。モチーフを深く描けば描くほどに、この複雑な犯罪者のエゴイズムが立ち現れて来る。それから目を離すことができなくなるのです。突如発動する激情。人を惹きつける危険な自己顕示欲…。  しかしそれらを魅力的にしているのは、やはり主演のヴァンサン・カッセルの力量によるところが大きいのです。ヴァンサンは、もともと大好きな俳優ですが、本当にアタリ役を得たと言うか…。国外での評価は、親&妻の七光り的だったり、過剰にマッチョなイメージ、よくてスター級俳優ですが、この作品でのヴァンサンは、陳腐な言い方ですが、もう謳い文句通り、絶頂期のデ・ニーロ並みです。  DVDにして二枚組と、ちょっと長過ぎて、特に実在の人物を描いた作品は途中退屈になるケースもあるのですが、もっとこの強盗のことを知りたくさせる作品力は、ワンシーン、ワンシーンに込められたジャン=フランソワ・リシェ監督のこだわりと、ヴァンサンの作品へのアプローチとコミットの尋常ならざるがゆえと感心するわけです。とにかく捨てシーンがないんです。  個人的には、「ヴァンサン、もうアウトローしか演じられないのかな」と、ちょっと不安になる今日この頃ですが、それほどまでに、ヴァンサンの演技は完熟の域にあります。早くからファンを公言(って。どこに?)して来てよかった。そんなミーハーな思いさえ抱いてしまう充実の作品。  脱獄仲間のマチュー・アマルリックも最高ですね。あの、“味噌和える直前のアジのたたき”のようなぬめりとたるい感じが、秀逸。ただ、技巧派で知られるマチューの演技が一本調子に見えてしまうほどに、ヴァンサンの勢いは壮絶でした。  もともと存在感と雰囲気、オーラにカリスマ性、華やかさを兼ね備えたテクニシャンが、ようやくこの作品で、いつまでも伝説として残る世界的な名優として真に評価されるのではないか、と確信しています。(了) 『ジャック・メスリーヌ/パブリック・エネミーNo.1 Part.1』 『ジャック・メスリーヌ/パブリック・エネミーNo.1 Part.2』 【送料無料】『パブリック・エネミーズ』ジョニー・デップ

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