人魚の世界に一歩
「カヌーやりたいね。」 「そうね。楽しそうね。」と、答えながらも,心の中では本当にすることになったらどうしよう、とドキドキしていました。 背泳ぎ25mしかできない私なのです。ドボンと川に落ちたら,背泳ぎなんか何の役にも立たないことは,海で泳いで溺れかけて十分に分かっています。 仕事を辞めると決めたとき、急に暇になってボケたら困るからと言って息子が1週間のスケジュール表を作ってくれました。(自分の学習スケジュールを作った方がいいんじゃない。)心の中でそう思いながらもありがたく頂戴したものです。 その中に,水泳を習うことが入っていましたので,近くの温水プールに通うことにし,申し込みに行きました。でも,新築になるのでと待たされて,ようやく実現しました。 昨年買った水着も試着し、持ち物やお化粧を落とすなどの注意事項をしっかり確認し、準備万端整えて行きました。 息子から「おばさん達は,結構グループで来ているから,一人ぼっちかもしれないけれど,最初は控えめにするんだよ。」などと余計な注意を受けていましたので,いつも控えめなのにもっと控えめに,集合場所に行きました。「えっ?ゴーグル持ってきてもいいんだったの?」 何気なく集まった人達を見ていた私は,思わずつぶやいてしまいました。「あら,ゴーグルなくて泳げるの?」逆に言われ、「売店に売っているわよ。今なら,まだ間に合うわよ。」と、親切に言ってくれる人もいました。 でも,私は飲み物代のコインしか残っていなかったのです。 しかも,ゴーグルは家にあるのです。それよりも何よりも,静かに待っている人たちの中で、つぶやいたつもりの自分の言葉が予想以上に大きく聞こえたことが、とてもはずかしかったのです。 きっかり時間通りに先生はやってきました。お花とは大違いです。挨拶もきびきびと気持ちがよく、大きなプールの中でもしっかりと声が聞こえてきます。さすが体育会系!「初めに聞きますが、いままでに水泳を習われていた方はいらっしゃいますか?」先生の質問に,なんとほとんどの手が上がりました。 17人中、私と定年退職者らしきおじさん2人以外,みんな経験者なのです。ここはレベル3のコースなのですが,今までもレベル3だった人,レベル4まで進んでいたのに時間が合わなくてもう一度このコースをという人までいるのです。レベル2からきた人はほんの数人。 板キック,面かぶりクロール,背面キックと練習は進みました。2時間は,あっという間。ゴーグル無しでも,ぜんぜん問題なし。名前も聞いていませんがお友達もでき、人魚の世界に一歩踏み出すことができました。 最後の挨拶が済み,帰ろうとすると「練習していかないの?」と、声をかけられました。「みなさん練習していらっしゃるのですか?」「復習しておかないと,来週辛いからね。」 でも,私には用事があり残念ながら練習に参加することができませんでした。 家に帰ると,身体がぽっぽと火照ってきてだるくて眠くて風邪を引いたのかしらと熱を測ってみましたが、熱はありません。2時間の水泳が,なまっていた身体にはこたえたのでしょう。 こんなことでは,人魚への道は遠いかも・・・