大常木谷
奥秩父の大常木谷はこれまで3回敗退した。1回目は水量が多く最初の大きな滝五間ノ滝が突破できずに戻った。2回目は一之瀬川の本流に降り立ったまではいいが、なぜか大常木谷の出合が発見できなかった。埋まってしまったのだと思った。3回目はさあこれから入渓というときに、突然の大雨に遭い取りやめ。だからずっと行きたいと思って気になっていた。M木くんとTのくんが竜喰谷へ行く、というので、自分も大常木谷だったら行きたいと言うと、あっさり大常木谷に行くことに決まった。当日はI上くんがもうひとり加わり、4人。7:20に車を出発し、一之瀬川へ大常木谷の位置を意識しながら尾根状を下る。かなり下った末、一箇所小ピークの登り返しがある。1回目に来たときにここを確かに通過したことを思い出した。ピーク直下を右から巻くように通過し、急な下りで、最後は大木から25メートルの懸垂下降をして流れに降り立つ。ここから上流へ5分ほど行くと、大常木谷の出合だった。うまく発見できた。車から40分ほどかかった。1回目だったか、2回目か、一之瀬の本流をいきなり泳ぎで対岸へ渡った。そんな水量だと、すでに大常木谷の遡行は無理だったろう。出合はしょぼいが、遡行してゆくと素晴らしい渓相が展開する。しばらく行くと1回目に敗退して見覚えのある五間ノ滝。8メートルほどの広めの滝を、腰まで釜に浸かって右から直登。その後はしばらく小さな滝や風情あるナメが出てくる。そして25メートルの千苦ノ滝。一般的には右から巻く。滝の下まで行って、直登の可能性を探る。右から取り付いて中間部で滝裏のバンドを左へトラバースし、左から抜けるライン。落ち口が傾斜があり、上に手がかりがなさそう。水流右から真っ直ぐ登るライン。ここも一見して上部、落ち口が核心。見た目より実際は傾斜がなく、上部までは難なく登れるだろうが、どちらにしても落ち口の突破でエイドになるかもしれない。ただ、装備さえあれば千苦ノ滝直登の可能性は充分ある。そんなことを考えながら、右から巻く。釜で泳いだり、倒木の上をバランスで歩いたり、次から次へとおもしろいポイントが現れる。不動ノ滝は10メートルくらいだろうか、釜が深く、ダイビング・ポイント。左を皆、フリーソロするが、落ちても釜。会所小屋跡周辺は倒木も多く、歩きで、ちょっとたるむ。一箇所、新しい崩壊跡があり、水流も完全に隠れていた。いつ頃の崩壊だろう。上部はいくつも沢が出合い、どちらへ行くか迷う。最初の(1:1)は左の方が沢床が高く、右を選ぶ。すぐ上にも再び(1:1)があり、標高1570メートルあたり。ここは相当迷った挙句、右を行く。岩盤がまだしっかりしていて、水流もそれなりにある。さらに(1:1)が出るが、右は倒木に苦労しそうで、一見脆そうな左の急な沢から一気に詰めることにする。途中で水流がなくなり、ガレを辿るとほどなく登山道に出た。12:20分。いいペースだ。結局遡行では一度もロープを使わなかった。登山道のどの辺りに出たのかよく分からない。ただ、詰めにそれほど苦労しなかったことから、ベストなラインを選択したのだと思われる。ようやく念願の大常木谷を完全遡行できた。奥多摩と一線を画し、広めの谷と、たくさんの釜、長い流程の割りに内容の詰まった沢で、素晴らしい谷だった。将監小屋からは車も通れるほどのしっかりした林道で、一之瀬高原の集落へ至る。さらに舗装路を車まで歩くが、途中で雷雨に遭い、沢で泳いだよりも濡れてしまった。