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サリエリの独り言日記

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2017.09.05
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カテゴリ:エレクトーンの日
マーラー「交響曲第九番」
 前回「大地の歌」を、オペラのようにドラマティックと言いましたが、じつはそれ以上に感じさせられるのが、100人前後というフルスペックのオーケストラとしては、オーケストレーションが驚くほど細密かつ微妙で、ほとんど室内楽のような機微を楽員全員が共有していないと、演奏不能に陥りそうな曲であるということでしょう。
 さきほどのエンディング1時間2分40秒くらいからのコーダ、F-ディースカウの絶唱に絡みつく絹のような弦と木管他のハーモニーは、歌曲にもオペラにもシンフォニーにもない響きで、これは指揮者があれこれ指示して出来るというものじゃなく、演奏家自身がお互いのインスピレーションをじゅうぶんに共有しあい、例の「拡張された身体性」を意識して、初めて生まれるものなのでしょう。
 それにしてもこの部分、鉄琴やマンドリン(!)らしき楽器まで加えて、まことに玄妙このうえない響きを聴かせます。マーラーは従来のオーケストレーションにおいても、ホルンやトライアングルなどで、独特の響きを聴かせましたが、どこから鉄琴やマンドリンの音色を混ぜることを思いついたのかしらん?

 とはいえ、「大地の歌」の印象は確かに恐ろしく暗いけれども、かぎりなく「深刻」という感じとは少し異なる。マーラー自身「この曲を聴いたら、自殺する人が出るんじゃないか」と心配したそうですが、これはいささか考え過ぎ。この曲全体を支配する寂寥感は、東洋的な「虚無感」に置き換えられているというか、エキゾティックな風合いで緩和されているのです。じつは「虚無」そのものは人間の価値観とは必ずしも関係ない。釈迦の説く「無」の概念は、そうした人間界をはるかに飛び越えた、「宇宙」そのものを扱っているでしょう。
 マーラーがそうしたエキゾチズムに緩和された響きでなく、真正面から己の闇に立ち向かったのは、その前の純粋器楽の交響曲第六番や第七番、そしてこの「大地」の後に書かれた第九番でしょう。彼の音楽が後期ロマン派という西欧音楽史のカテゴリーを飛び越えて、現代の私たちに語りかけて来るのは、音楽技術的な斬新さではなく(それならウェーベルンやシェーンベルクなどは、もっと過激にやっていました)、ロマン派が大きく指し示しているヨーロッパ的情緒あるいは秩序というものを突き崩し、その精神の奥に潜む統御不能な深層にまで、音楽で踏み込んだことにあるでしょう。当時ウィーンではフロイトの深層心理学が流行し、マーラー自身彼に受診したこともある由ですが、理性では統御不能な深層心理の認知は、少なからずこのころのウィーンの芸術家に影響を与えたでしょう。

 これは別のところでも少し触れましたが、もし制御不能な闇の世界にまで深掘りしようとするなら、それは精神の表現というより「神経的な痙攣の表明」とならざるを得ない。第九番の第一楽章18分20秒くらいから始まるティンパニのゆったりとした連打に絡む、金管と弦楽木管の繰り出すハーモニーは、抗いようなく流れていく「運命」を表わしているかのようで、それは同時に死への階段を踏みしめる葬送行進曲でもあるのです。死への怖れと安寧が交錯する人間的情緒と、それら一切とまったく関係なく進行していく「時間」のありようを、このように表現した音楽というのはあまりないのではないかしらん?
 はじめに「大地の歌」は東洋的エキゾチズムが、暗さを緩和していると言いましたが、じつはもっと大事な点がありました。「声」が闇の表現を邪魔しているのです。言葉は人間の精神の表明に他ならず、もし当時のマーラーがそうした精神のさらに奥、制御不能な闇の世界に踏み込もうとするなら、人の声は排除せざるを得ないということになったのではないか。

 しかしここはマーラーがテーマではないので、これ以上は止めておきましょう。昔が懐かしくて、つい長話になってしまいました。この第九番にかんして、私の記憶は非常にハッキリしています。京都のレコード店に買いに行ったのが大学二年のとき、そして当日友人の家で徹夜マージャンをし、待ちきれなくて翌朝その家のオーディオで大音量で聴いていたら、大不興をかったのを覚えているからです。
 ここで追いかけているのは、「記憶の彼方」からよみがえって来るような音色とは、どこからどのように生み出されるものなのか、ということでした。





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Last updated  2017.09.05 16:38:18
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TNサリエリ@ Re[1]:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) ナガノさんへ  コメントいただき、ありが…
ナガノ@ Re:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) 2年遅れで、この文章を読んで泣けてしまっ…
TNサリエリ@ ふたたび、コメントありがとうございます。 cocolateさんへ 私自身、彼女の演奏に刺激…
cocolate@ Re:エレクトーンというガラパゴス 1.(06/17) 再びおじゃまします。 826askaさんのYouT…
cocolateさんへ@ コメントありがとうございます。 三年ほど前に826asukaさんのことを知り、…

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