テーマ:好きなクラシック(2299)
カテゴリ:クラシック
バーブラ・ストライザンド 1.
B・ストライザンドはブロードウェーの舞台ミュージカルでデビューしたあと、アメリカンポップス界を席巻した人で、その唱い方には明らかに舞台の影響があります。一言でいえば、地声で劇場隅々まで届く息の長い声量、明晰な言葉使い、さらに加えて彼女特有の広音域と、ドラマ性というところでしょうか。一聴しただけで、独特の粘着質な歌いぶりが分るでしょう。 多少の歌唱力があっても、強烈な個性がないと、たちまち淘汰されてしまうようなアメリカンポップス界においも、デビュー当時から強い存在感があったのでした。そもそもブロードウェーのスターが、ポップス界で大成功したためしは、それまでなかったのではないか。その意味でも彼女の登場は、アメリカのポップス界において画期的だったのです。 しかしながら、彼女の初期の傑作「クライ・ミー・ア・リバー」や「ピープル」は、確かに人の心を打つ絶唱ですが、こればかりやられると、聴くのが「しんどくなる」というのも事実です。現にごく初期から、「しつこい」という評価もあったようです。その彼女が一皮向けた感じがしたのは、フランスのミシェル・ルグランと組んだあたりからで、アコースティックなバックに乗せた彼女の歌声は、バラード歌手としての地位を確立するものでした。私はこのころの彼女の歌が好きで、先の「What are you doing the rest of your life?」も確かルグランですよね。 とはいえ、彼女自身はたんにミュージカル仕立てのバラードシンガーに止まるつもりはなくて、さまざまな分野で自身のキャパを試そうとします。それはジャズやロックからクラシックに到るまで、ほとんど洋楽の全分野というほどに広いものですが、驚くべきはその間に出したLPが、ことごとくミリオンセラーになるという記録を打ち立てたことでしょう。 その中でクラシックファンの私としては、やはり「クラシカル・バーブラ」のフォーレ「夢のあとにAprès un rêve」がなつかしい。バーブラ特有のドラマ臭を抑えて、求心性を込めた歌唱は特筆もので、クラシックの歌手とはまったく別のアプローチで、曲に迫っていく姿はあっぱれものですね。本職のオペラ歌手でポップスを歌って、このような拮抗する音楽世界を聴かせた歌手は、まだあとにも先にもいないのです。他にもシューマンやウォルフといったかなり渋めのドイツ歌曲や、ヘンデルやシューベルトも歌っていて、その貪欲さと自信には驚いてしまいます。 彼女の最大のヒットアルバムは比較的新しくて1970年の「ストーニー・エンド」だそうですが、ミュージカルであれクラシックであれロックであれ、彼女の鼻(あのトレードマークのデカ鼻)にかかった声質は少しも変っていない。であるにもかかわらず、これだけの広いキャパを示した歌い手は、間違いなく今だいないでしょう。 それでも私の個人的趣味は、どうしても初期のルグランとのコンビによるバラードに傾く。その後映画界にも進出した彼女は、「愛のイェントル」(1984)というミュージカルで再び彼と組みましたね。日本ではほぼまったく話題にもなりませんでしたが、使われていた曲は今でも私のお気に入りです。「No Matter What Happens」を、とりあえず聴いてみてください。 見事な歌唱とルグランのバックがうまくマッチして、バーブラらしさがいっぱいなのですが、映画自体はせっかく巨費を投じて東欧ロケまで行ったのに、彼女のコミカルな演技とユダヤのエキソダスという重厚なテーマが、何となくちぐはぐで印象を浅くしてしまいました。それでもなつかしいのでエンディングの「A PIECE OF SKY」は画像付きで観てみてください。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2018.03.29 17:02:32
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