トカトントン 2.1

2009/08/15(土)00:04

実録・連合赤軍 あさま山荘への道程 / 若松孝二

映画(239)

■78年2月28日。その日の記憶はうっすらとだが、まだたしかにある。あさま山荘にたてこもった連合赤軍の兵士たちが、警察側のクレーン作戦によって追い詰められていくテレビ映像を一日中見続けていた。彼らがひとりひとり水浸しになりながら警官によって連行されていったのは夕飯の時間になった頃だったのではないか。その日の献立が(彼らが山荘で食べていたように)カレーライスだったかどうかは覚えていないが。 ■5人の若者たちの名前は今でも覚えている。坂口、吉野、坂東、加藤兄弟(当時は未成年だったので少年A,Bだった)、特に連行されていく際に(今では考えられないが)、警官がわざと彼らの髪の毛を鷲掴みにし、その顔をテレビ映像に晒そうとしていく様子に衝撃を受けた。ま、あれだけ発砲を受けて同僚に殉職者さえ出ていたのだから、彼らに対し相当な敵意を抱いていたこともよくわかるが。 ■『実録・連合赤軍あさま山荘への道程(みち)』は3時間の長尺映画である。導入部は原田芳雄のナレーションによる連合赤軍の成立過程。ここはドキュメンタリー映像を多く含んでいる。最も濃く描かれるのは山岳ベース事件と呼ばれる榛名アジトにおける組織内の粛清場面。そしてあさま山荘にたてこもった5人を描くのは終盤およそ30分ほどである。 ■ほとんどの若者たちが実名で描かれる。そして12人の犠牲者が実際の事件と同じ順番で彼ら自身によって殺されていく。報道ではあさま山荘事件決着後に明らかにされた事実だが、初めてそれを知った時の衝撃は大きかった。今回その実態を映像によって再確認し、その理不尽さに再度衝撃を受けることになった。 ■森恒夫と永田洋子をリーダーとした時点でこの集団の崩壊は始まってしまった。総括、自己批判の真の意味はどこか遠くに放り投げられ、集まった同志たちは疑心暗鬼になりながら、自分自身を守るため、自らを否定する前に他者を攻撃する。 ■いわく、水筒を忘れた、人の話を聞いていなかった、かげでキスをした、他人の悪口を言った。なかでも、赤軍派遠山美枝子に対する永田の私怨とも思えるようないじめの数々が凄惨。坂井真紀はオーディションでこの遠山役を得たと聞くが、彼女が壊されていく過程のインパクトがこの映画の大部分を占める。 ■見ていて思ったのはこの集団はあの新選組とよく似ているのではないかということ。かたや法度で、かたや総括で、そもそもあった大義名分はそっちのけで、組織の堅固さだけを守ろうとしているように見える。思想的には思いっきり右と左だけれどね。 ■唯一実名で登場しないのが奥貫薫演じる山荘の管理人。わたしたちは彼女の名前を(当時の報道で)知っているが、この映画の中では人質としての役柄でのみ描かれる。1週間以上に及ぶ籠城生活の中で山荘内で何が起こっていたか、それを時間をかけて描ききっているわけではないが、最終盤の少年Bの叫びは胸を打つ。彼らにとって幸運だったのは5人の中に森と永田が含まれていなかったことだったろう。もしも彼らがあの中にいたら、きっと違った結果になっていたのではないかと思う。 PS ■キャストは(坂口役のARATA,遠山役の坂井を除いては)ほとんど無名の俳優さんばかり。その中で森恒夫、永田洋子役それぞれが実にぴったりで憎々しさ倍増。一瞬出てくる警官役の小倉一郎はなぜだ。あ、宮台信司もワンシーン顔を出します。基本的に出たがりなのかな。 ■音楽はジム・オルーク。なんで菊池成孔でも大友良英でもなくジム・オルーク?地味です、全然しゃしゃり出てきません。欧米から見て、この時代のこの運動ってどのように見えるんだろうか。70年代、場所は違えど、全世界規模でレボルーションは進んでいたわけでしょ。

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