1996 / 坂本龍一
01. ゴリラがバナナをくれる日02. Rain03. 美貌の青空04. The Last Emperor05. 191906. Merry Christmas Mr.Lawrence07. M.A.Y. in The Backyard08. The Sheltering Sky09. A Tribute to N.J.P.10. High Heels(Main Theme)11. 青猫のトルソ12. The Wuthering Heights13. Parolibre14. Acceptance(End Credit)-Little Buddha-15. Before Long16. Bring them home■映画「バベル」の公開を期に再発されたらしい。1996年に作られたからこのタイトル。それまでの教授の代表曲を彼自身のピアノに加えて、チェロ(ジャック・モレレンバウム)、ヴァイオリン(エバートン・ネルソンら)というトリオ編成で録音し直したベストアルバム。■M3「美貌の青空」が例の映画でも使われているらしい。この曲の不思議な魅力についてはこのブログで何度も触れる機会はあったが、緩いヒップホップ調に教授のヘタウマ歌唱が印象的な原曲に対し、ここで繰り広げられる音世界は3つの弦楽器の旋律が上昇したり下降したりしながら情緒的に擦りあう。売野氏の歌詞(だけでなく教授の歌も)が抜け落ちた分、イメージを限定しないだけ様々な妄想を聴き手に許し、まさに映画音楽にうってつけと言えないか。■映画音楽といえばM2,M4,M6,M8,M10,M12,M14の全部で7曲がサウンドトラックからの抜粋で、彼のそこまでのキャリアを振り返る企画としてもかなり映画音楽寄りの選曲になっていることがわかる。逆に言えば残りの9曲にしても、今回のM3のようにいつ映画に使われてもおかしくないような旋律とムードを併せ持っているとも言える。■最初にベストアルバムと書いたが、彼の代表曲の焼き直しという意味ではなく、ベストな演奏と構成によるという意味でのベストアルバムではないかと思う。後にピアノソロによる静謐な作品集も数多く発表されたが、このトリオによる深みと渋味はそれを補って余りある。本当に3人だけで作り上げられたものかと疑ってしまうような小さなオーケストラがここにはある。■いつ聴いても気分を裏切らないアルバムとも言える。ほとんど夜にまったりとしながら聞くことが多いのだが、心地よさと適度な高揚感が得られて、結局ラストの数曲を残して眠ってしまうことも多い。雑誌を眺めながら聴くも良し、本を読みながら聴くも良し、できれば濃いめのコーヒーを用意して、M16まで聞き終えることをお薦めしたい。PS■M2とM5の戦闘的な2曲が美しい。前者は「戦メリ」でも印象的な佳曲。後者のバックに聞かれる演説はレーニンによるもの。それが行われた年が1919年だった事にタイトルは由来しているという。