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カテゴリ:本
直木賞受賞作品。 舞台は、中世末期のフランス。 時の権力者ルイ12世が王妃と離婚しようと、裁判を起こします。 離婚を拒む王妃は、不利な状況に追い込まれますが、それを救おうと弁護に立つことになったのが、主人公である弁護士フランソワ。 国王を向こうに回して、丁々発止の法廷劇が繰り広げられます。 ……というのが、あらすじ。 当時は教会(つまりキリスト教)の力は強く、宗教の教えが生活の基盤であるわけで、結婚、離婚を取り扱うのも教会であり、離婚裁判もいわば宗教裁判であるわけです。 よって、結婚を無効にするかどうか、ということもキリスト教の教えに基づいて、判断されるわけで、そこに中世ヨーロッパのキリスト教(いまではカトリックに受け継がれている)における結婚観が伺えます。 「姦淫することなかれ」 「生めよ、増やせよ」 という、2つの矛盾するキリストの教えを同時に満たすために、後世の人々が行き着いたのは、 「生殖のためだけに、性交するべし」 という逃げ道。 キリスト教徒(今はカトリック)の結婚はそこに基づいて制度化されているわけです。 だから、今でも中絶をめぐって、かなり血なまぐさい闘争が起きたりしているのも、うなづけます。 合理的に物事をとらえられないのが、宗教の難しさです。 ……と、そんな具合に、小説に中世ヨーロッパの風俗や宗教風景が盛り込まれていて、世界史的知識が中学生レベルで止まっている私にはとても興味深かったです。 (高校時代は、受験科目に日本史を選択したので、世界史は古代で終わっている……) 欧米人が書く西洋歴史小説は、読み手が常識でわかっているだろうとする前提が日本人の理解に及ばない部分(メンタル部分とか)であることが多いので、読んでいて理解が難しいところがある。 だけど日本人が書くと、日本人向けに至れり尽くせりに解説されているわけだから、助かります。 ただ、薀蓄部分や宗教裁判の様子はとてもおもしろかったのだけど、人物の描かれ方は、ちょっと物足りないような。 とくにフランソワの浪花節のような過去の恋愛譚や、心情吐露部分、お涙頂戴シーン。 ちょっとお安い感じで、この手の歴史小説には不要だと思うのだけど。 そのへんの部分(その部分は小説において中心をなしてはいるのだけど)は一切省いて、中世の教会付けの弁護士という職務部分だけに筆を割いてもらったほうが、ストーリーがすっきりしたかもしれません。 作者にとっては、これも読者サービスなんでしょうけど……。 「王妃の離婚」 著者:佐藤賢一 出版社:集英社 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2006年04月30日 19時52分59秒
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