2007/03/13(火)00:55
「魔王」「太陽の塔」
最近読んだ2冊の感想をちょっとずつ。
「魔王」
著者: 伊坂幸太郎
出版社: 講談社
ファシストと闘おうとする超能力兄弟の物語。
兄が主人公の「魔王」と弟が主人公の「呼吸」の2篇が組まれています。
しかし物語は、壮大なSFではなく、あくまでも普通の日常の中で描かれます。
「政治的なものがテーマではない」とあとがきで作者自身がことわっているように、作品のなかで触れられている民主主義だとか全体主義だとかの政治形態の是非を問うているわけではありません。
大衆がいともたやすく煽動され、ひとつの方向に流されてしまおうとするときにおけるあり方を問うているのです。
立ち止まって「考える」ことができるのか。
洪水のような流れの中で、大切なことを守っていけるだろうか。
兄は熟慮の末、弟は直感の末、答えを見出します。
弟が主人公の「呼吸」。
静謐な生活うを送り、すでに巻き起こった潮流から離れた場所に立つ弟が選んだスタンス。
読み終わってからも、いろいろ考えさせられました。
「太陽の塔 」
著者: 森見登美彦
出版社: 新潮社
第15回日本ファンタジーノベル大賞大賞受賞作。
京都を舞台に描かれる、恋愛事に全く無縁な京大生たちの「男汁」溢れる青春。
青春は、かくも恥ずかしい。
青春は、かくも痛い。
しかし、青春は、かくも美しい。
それをつくづく実感します。
その半端でない痛々しさ。
それをあえてとことんまで高み(?)の位置まで追求し、強がりを矜持に変えて生きていく「私」たち。
笑っていいのか、哀れんでいいのか、わからないままに物語に引き込まれていきます。
そして、同じ経験をしたはずもないのに(私は女だし)いつのまにか共感すら持って読んでしまいます。
中盤から深夜の京都の町に現れる叡山電車のゆく幻想的な風景。
そして、クリスマスイブに起きた奇跡的ムーブメント。
むさくるしくうっとうしい男たちの妄想が、美しいものに昇華されていきます。
samiadoさん、ご紹介ありがとうございました。
おもしろかったです。