伊井直行
「ポケットの中のレワニワ」上下
【内容情報】(「BOOK」データベースより)
内緒だけど、レワニワのこと知ってる?
第二次レワニワ探検隊は、向洋台団地N6棟にある森島君の家に向かった。
そこで何を発見することになるのか知らないまま─。
【内容情報】(「BOOK」データベースより)
あなたは、きっとレワニワが好きになる。
ティアン、仕事ができるんだかできないんだか微妙な徳永さん、コヒビト、偏頭痛持ちの三浦さん、中年のSEXフレンドあみー、そして、レワニワ。
あらすじを書くのがめんどうなので、楽天ブックスのデータベースをコピペしてみたのですが、上記の内容で理解できる人は皆無な気がします。
これじゃ、内容情報を読んで本を買おうなんて人はいないんじゃないかと、かえって営業妨害のような気もしますが。
で、仕方ないので、自分で書くことに。
と、いっても、簡単にまとめられる話ではないです。
(だから、データーベースの内容情報もあんなものになってしまったのかも)
あらすじをおおまかに。
ワーキングプアの阿賀多は、当然経済的安定もなく、将来の展望をもてないまま20代も終わろうとしている。
親を頼ろうにも、実父は他界し、再婚した母とは断絶状態。
そのわりにはひきこもりの義弟(継父の連れ子)の面倒は押し付けられる始末。
というか、他者とのコミュニケーション不全の義弟は彼にしか心を開かない。
幼馴染で、ベトナム難民だったティアンとは、現在の派遣先で再会し、友情以上の好意を持ちつつあるが、上昇志向の強い彼女との関係は進展を望めない。
その上、彼女の周りに元難民仲間の胡散臭い連中がつきまとうようになり……。
格差社会の申し子のような阿賀多をはじめ、現代における様々な難民が描かれ、重苦しいテーマが突きつけられます。
しかし、筆致は重苦しくないし、そこはかとなく飄々としたユーモアも全編に漂ってたりします。
たぶん、これが伊井作品の特徴ともいえます。
とくにおかしいのが、2ちゃんねらーの義弟コヒビトとの会話。
どこかずれていてかみ合わなくて、それがトホホで切ないのだけど、同時に笑ってしまいます。
ついでに、何だかいつも的外れな職場の正社員の徳永さんの存在もナイスです。
物語は、レワニワが登場してから、ぐっと急展開します。
レワニワ。
願いをかなえてくれるという爬虫類(イモリみたいなイメージか?)。
少年時代に都市伝説的存在だったはずのレワニワが、阿賀多の前に現れるのです。
それまで、さんざんなまでに現実そのものだった物語世界に、架空の謎の生命体が侵食してくるのです。
阿賀多だって、びっくりです。
かといって、物語世界は損なわれません。
現実と非現実の交わりが、自然に行われます。
この辺は、著者の筆力というものでしょうか。
それでもって、レワニワの存在が、うまく現実の世界に入り込んでからは、ストーリーは急加速。
終わりまで、一気に駆け抜けて行きます。
でも、人生一発大逆転、物事はすべて大団円……てなことにはなりません。
やはり現実の人生を描いた小説なのだから。
それでも、主人公にも周囲の人間にも少しずつ変化が生まれます。
そこには、希望というものも見え隠れします。
そして、たぶん、いつの世も、どんな状況でも、人間の生の根源的なものは同じなのだと納得させられます。
それは、阿賀多が、レワニワに願掛けする内容とつながってくるわけで、それはどんな人間も欲するものともいえます。
「お金とか、女とか、名声とか、わかりやすいことお願いしてくれればいいのに」
というようなことをレワニワはぼやくのですが、阿賀多はそれを望みません。
そこが、文学ってやつですかね。
状況としては、大きな変化のない幕切れなのだけど、読後感は悪くありません。
爽やかともいえます。
そう感じるのは、読んでいるうちに読み手側にも価値観のシフトチェンジが行われるからなのでしょうか。