読まなくてもいい話

2008/02/09(土)10:40

母の青春No2

母(43)

母は、女学校の寄宿舎に入った時、 自分が読んで感動した、外国の小説のような、女子寮を夢見た。 自分が入寮したからには、ぜったい、すてきな女子寮にしたかった。 入ったばっかりで、彼女ははりきっていた。 いろんなアイデアを出して、 彼女が理想とする外国のような雰囲気にしたかった。ある日、構内で、3年生のお姉様方に取り囲まれた。 その中の、背のすらりとした美しい上級生が、 「薫子さん。あんたって、えらいんだってねえ」と。 その目は、冷たく光っていたそうだ。それでも母は、ぜんぜん意に介さず、心の理想を ちゃくちゃくと築くことに明け暮れた。 母は、73才くらいになって、初めて同窓会に行った。 そのころは、父の看病ばかりであったから、母は絶対に行かない と言い張った。それまでも一度も行ったことがなかったけれど たまたま、そのことを私達姉妹が知って、 どうしても母を同窓会に行かせたいと、強く思った。それで、 姉妹が順番に父を看病し、母に少し長く旅をしてもらった。 それは、彼女が同窓会に出席した、最初で、最後になった。 その旅で母は、2つ年下の懐かしい友人に、出合った。 母は、こころはずんで、うれしく、聞いた。 「ねえ、あの頃、私達が寮長だったころが一番よかったでしょ?」ひとこと、 「怖かった」と。

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