2008/12/22(月)13:56
お正月のころ
私の父は勇気のある頼もしい男だった。戦後は
馬車馬のように東奔西走し、
いろんな企業を興し私達に良い想い出を与えてくれた。
引っ越しを両指を使うほど繰り返したが
常に、新築の家に引っ越しさせてくれたものだ。
その父が、あるお正月、吐血した。
大手術で一命をとりとめたが、その時何もかも忘れてしまった。
医者は、
一度死んだけれど、強い体だったから、息を吹き返したと言った。
家族の名前も覚えていないほどだったが、
芯から強い男だったので、みるみる回復し、元の人間に戻り、
仕事もばりばりしていた。が、しかし、
余りにも体へのダメージが大きかったのが遠因か、
10年ほど経ったころからだんだん呆けが始まった。
父の、人情にもろいところが災いして、
保証人になってあげていた人が夜逃げしてしまい、
父が、代わりにお金を返済しつづけていたが、
父が呆けてからは、母が返済を続けていた。
あと、100万円で終わりという時
相手の○○デパートの社長さんが
「奥様、もう、貴女からお金を返してもらおうと思っていません、
そんな金額は、私が儲けますから」と言われたそうだ。(はよいえ~)てへ
でも、絶対返すわ!と、母は、思ったそうだが、腰砕けになって
お終いまで、返せなかったそうだ。でも、終わった。
数年後、私がある街のケーキ屋さんで買い物をしていたら、
「あら~こんにちは~」と、中年の女性が声をかけてきた。
それは、あの、夜逃げした男の娘だった。
そのまっすぐに私を見る目に、何の曇りも無いのを見て
私は、
「ああ、この女性は、自分の父が夜逃げして、人を困らせたが、
その相手が、私の父だと言うことを、全く聞かされていないのだ」と
直感した。
ちょっと心が揺れたが、何もそれに触れずに明るく別れた。