書評保存「オウム帝国の正体」(一橋文哉著,新潮社)
<「さる関係者」行進曲> オウム真理教そのものをテーマにしていないオウム本.何をテーマにしているのかと言えば,著者が他の本でも主張している「闇の勢力」. 問題はその信憑性だが…… オウムの早川の供述ぶりに,「陰の権力者」の存在を推測してしまう筆者. 本気でオウムがクーデターを企てていた,とする公安内部の捜査報告書(よくリークしてもらえたものだ).「オウムという金の成る木に群がる悪党が問題だ」と語る暴力団関係者. オウムを不動産占有屋として使っていた業者. オウムの子会社にソフトを受注してしまっていた警視庁.「エリツィン政権が,資金確保のために創価や統一教会に声をかけ,最後に行き着いたのがオウムだった」と証言する旧KGB関係者. 戦車を転売して利益をあげていた「可能性」 自衛隊上層に十数人の隠れ信者中核グループがいるのではないかと観る「CIA」(その情報の出所は?)「国松・警察庁長官を撃ったのは,プロの殺し屋ではなく,スパイか将校」と分析している「CIAエージェント」「旧KGB人脈が,二束三文の旧式武器を高額でオウムに売りつけ,かつ,反米思想を吹き込んだ」と語る「CIA関係者」「オウムがウラジカフカスを動かないのは,核をそこに保管しているからではないか」とする「CIA報告書」 武器商人マセンコと,オウムと繋がりのある元KGBとの間の,オウム・クーデター計画の会話を聞いたとする,「盗聴」「北朝鮮がオウムのサリン計画に高い関心を寄せていた」(CIA関係者) サリン原材料を北朝鮮に密輸出していた,日本の会社. 指名手配中のオウム信者を匿っていた暴力団. オウムの村井殺害は,暴力団が組織と麻薬密売ルートを守るための口封じと考える「一部捜査員」. オウム井上ノートの「オウム臨時政権の閣僚名簿」の中にあった,山口敏夫と金丸信. オウムが稼ぎ出した巨額資金が二信組疑惑に群がる連中に流れた可能性が高いと見る「捜査幹部」.「田中角栄の失脚はアメリカの陰謀」説を本気で信じているらしい筆者. オウムと金丸信と北朝鮮の金塊の繋がり. オウムと統一教会の,体質やロシア・北朝鮮進出などの類似性.「オウムによって日本に混乱を起こさせ,それに乗じて北朝鮮が軍事侵攻を企んでいた可能性」を語る「CIAエージェント」.そんな能力は北朝鮮軍にはないんだが……. 村井刺殺犯と北朝鮮スパイ辛光洙との,あまり繋がっているとは思えない「繋がり」.「ある政治団体からクーデター計画を打ち明けられた」という「ある政治評論家の調書」.「この話を書いたらタマ(命)取るで」と筆者に言う「暴力団関係者」.それにしては,今に至るも,筆者が襲われたという話は聞かないが……. オウム信者の供述の不審点から,事前準備や事後処理を行うための,「プロの別働隊」の存在を推測する筆者. 暴力団組長の隠し口座にオウム関係者と見られる人物から振り込まれていた5億円. 闇に消えた「名古屋の男」. 両サリン事件直前に毒ガス・マスク・メーカー株を買い,事件直後に売却した形跡のある株価の動き.……といったように,肝心な部分が「さる関係者」ばかりで物証があまりない. また,CIAが頻出する点も,現役諜報機関エージェントのリークは,何らかの意図がある場合が多いことから考えて,素直にそれを信用することはできない. 関心率80.75%(全ページ中,興味あるページがどれだけあるかの割合.当方基準). ただし,上記の理由により,話半分で聞くべきであり,それを勘案すると,大雑把に言って実質40.37%の価値しかないということになる. よって,「読めば?」レベル.<メモ残余> 「お家騒動」で出家信者の信頼を失った麻原長女・3女. K巡査長問題の影にも警察内部の派閥抗争. 「早川は別団体を作ろうとしていた」説. 歯型から身元が分かるから,と,坂本弁護士一家の遺体の歯を折るオウム信者達.