新発意さんに教わる
先日、真言僧になるための四度加行を終わられたということで近隣寺院の副住職さんが当院にお札を持ってあいさつに来られました。坊さんになったばかりの人を「新発意(しんぼっち」と言います。私が同じような行を行ったのは20年近く前のことですが、その時の想い出が頭に浮かびました。さて、その新発意さんとお話していると、「お大師様の般若心経秘鍵には昔疫病が流行った時に、嵯峨天皇が般若心経を写経されて、様々な奇跡が起こったと書いてありますので・・」「え?そんな話ありました?どこに?」「一番最後の上表文にあります」「ああ~あそこね」般若心経秘鍵というのは、お大師様が般若心経について書かれた書であります。真言宗のみならず、般若心経は広く日本で読まれているお経ですがその内容はよくわからないと言われます。そこで古来から沢山の解説書が出ていますが、それを読んでも今一つ良くわかりません。良くわからないのは当たり前で、般若心経は教えを説かれたお経ではなく瞑想法について説かれたお経で、インドでは般若心経の瞑想法がいくつも作られています。その観点から書かれたのが弘法大師の「般若心経秘鍵」で般若心経を理解するための密教瞑想法について書かれています。その本文が終わった後に、まったく関係ない弘法大師の上表文がついているのですが、古来からニセモノとされ、後から付け加えられた物と言われています。真言宗でもそういわれていて、真言宗系の学者の著作でも現代語訳すら割愛されているようなものなので、私もその部分を読んだことはありませんでした。しかし、今回改めて読んでみると上表文では般若心経の功徳によって「死者が生き返り、夜でも日光がギラギラと輝いた」という奇跡が書かれています。この奇跡自体は、古来から「こんな事実はなかった」と批判の対象になっている部分で、それゆえ真言宗でも切り捨ててきたのですが、一方でそういう事実を信じることが信仰では大事なのかもしれません。新発意さんがこういうところに注目するということは一般の信者さんにはこういう話はわかりやすいのかもしれないと改めて感じました。