君に恋した夏(6、残像)店に足を踏み入れた瞬間、冷房の効いたひんやりとした風を受けた。「お一人様ですか?」と店員が聞いてきので、 「後からもう一人来るんだ・・・」といいかけたところで、 奥で手招きしている男と目があった。 その男は、鈴木だった。 「よっ。悪いな。忙しいのに」 昨日澤谷と一緒に来た喫茶店で偶然にも同じテーブル。 今日はアイスコーヒーを頼んだ。 久しぶりに会った鈴木も、やっぱりモテてるんだろうなと思わせる雰囲気を漂わせている。 「どうしたんだ?お前が俺を呼び出すなんて珍しいな」 「ちょうど仕事の関係で近くを通ったからさ」 「フッ。昨日同じことを澤谷も言ってたよ。」 「あいつ。来たの?」 「ああ。」 「ふぅ~ん。なるほどね、そういう事か」 「何の話だ?」 「いやいや、こっちの話」 顔の前で手をひらひらさせていった。 「ところで、お前って今特定のやついるの?」 首を左右に振って 「いや、いない。俺がモテないのしってるだろ?」 それには鈴木は答えなかったので、 「鈴木は持てるもんな。彼女いるんだろ?」 「残念ながら」 気のせいかもしれないが一瞬睨んでるように見えた。 「おまえ、澤谷の事どう思ってる?」 いつもより、低いトーンで真面目な顔を向けてきた。 「別に、どうも思ってない。」 「まだ、あの例の彼女の事引きずってるのか?」 微妙な重い空気が流れた。 「それも澤谷から聞かれたよ。」 それから2,3何気ない言葉を交わして俺は帰った。 ☆★☆★ 鈴木の言葉を反芻していた。 ”彼女の事を引きずってるのか” 逆に教えて欲しいよ、どうやったら忘れられる? 「君」を忘れた事は一度もない。 今も変わらず好きだ。 いや、それ以上かもしれない。 あれから、俺もいろんな女と付き合ってみたが、ダメだった。 君の変わりには、なれなかった。 ショートカットの女を見たとき、 君じゃないかと。 また、何事もなかったかのように俺の前に表れないかと。 期待している俺がいる。 君は、何処を探してもいるはずがないのに・・・。 君が居なくなって、あらゆる場所を探した。 何処にも君がいなて、ただ足を棒にしてずっと探し続ける日々だった。 あの日。 俺は、全てを知ってしまった。 もう君に会えないんだという事実を。 ジャンル別一覧
人気のクチコミテーマ
|