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髪が伸びて
秋が来た *** 六本木ヒルズを歩いていたらオシャレなおばあちゃんに会った。 本人としては、スーパーに行く時の何気ない格好だったのかも しれないけど、かわいかった。 ショートボブの白髪は前髪をピンで押さえ、緑色のポロシャツに 黒とベージュと白のストライプのスカートに茶色のサンダル。 買い物袋を片手に、少し曲がった腰で歩いていた。 私はしばらく彼女を見つめていた。 そしたら、おばあちゃんはふいにアルマーニジーンズの前で 立ち止まった。 そして鮮やかな今年風のオレンジ色のコートを着た ショーウィンドーのマネキンをしばらく見つめた。 こういう瞬間がとても好き。 おばあちゃんとマネキンのアルマーニジーンズの服はあまり 接点がないように思う。 その服をおばあちゃんが着るか、 というとそれは現実味がない。 でもなぜか立ち止まって見上げた。 きっと何かしらその服に惹かれるところがあったのかもしれない。 「ステキ」と思ったのかもしれない。 私は、歳をとってもそういう感性をもっていることがステキだと思った。 ***** ということで、六本木ヒルズに出かけてきた。 最近はまた仕事が増え、残業続きに加え、前回の日記でも 意地をはったように、日本語教員の試験(3日だと思っていたが 17日だった。働き出したらここまで日程に疎くなるものか。) に向けて一日2冊のテキストを読み込んでいる。 どんなに寝るのが遅くても、5時半起き。 どんなに残業していても、飲みには行く。 そんなこんなで疲れてるはずの土曜日、12時には六本木に。 というのも、 退院したばかりの友人が、私の就職祝いをしてくれるというのだ。 この土曜日も、かつてのアルバイト先の塾長は、 私を呼んでくれて、可愛い生徒に会うチャンスを失うと思うと とても迷ったけれど、お断りしてしまった。 実は六本木ヒルズは初めてで、 お店で買えるものはやっぱり何もなかったけれど、 まがりなりにもこうしてたどり着いた今にいたる道のりとか、 これからのことなんかをお互いに話していると やっぱりとてもシアワセだった。 彼女が、「これ・・・」と控えめに差し出した、優しい茶色の 紙袋。 灯をともしてお風呂に浮かべるキャンドルのプレゼントだった。 私がアロマ好きな事を覚えていてくれたその小さな優しさが とても嬉しかった。 ***** 家で早速、試してみる。 隣の部屋にいる弟にライターを借り、火をつけてお湯に浮かべる。 お風呂の明かりを消す。 ごく普通のお風呂が、高級ホテルのバスルームみたいになった。 はしゃいだ気持ちでお湯につかる。 薄暗い中でゆらめくキャンドルの光は、あたたかくもあり、 官能的でもあり(笑)、とてもリラックスした。 気づけば就職して、もうすぐ4ヶ月がたつ。 **** 宇野千代先生という私の好きな作家の文章に、こんなくだりが ある。 書ける。また、一枚書いた。書ける。ひょっとしたら、私は 書けるのではあるまいか。そう思った途端に書けるようになった。 書けないのは書けないと思ったから書けないのだ。書けると信念 すれば書けるのだ。この、思いがけない、天にも登るような啓示は 何だろう。そうだ。失恋すると思うから、失恋するのだ。世の中の凡てが、この方程式の通りになると、私は確信した。そのときから、私は蘇生したように書き始めた。 夏に海へ行った時、懸命に砂山を作る二人の子供を見かけた。 でも、だんだん潮が満ちてきて、波は一瞬の間に、砂山を さらっていってしまった。 あとにはあっけないくらい平らな砂浜が、何もなかったように 続いていた。 私は遠くから、「あーあ」と落胆した。 でもどうしたことだろう。子供達は顔を見合わせて、 急にひまわりみたいな笑顔で、キャッキャとはしゃぎ出したのだ。 そしてまた、一生懸命に山を作り始めた。 私は、その様子に見とれた。 もう、心から見とれていた。 その集中力にドキリとした。 多分、本当に何かをしたい、できると思っている時には、 先のことや結果の事なんか、頭にないはずだ。 うまくいくかどうか?いかなかったらどうするか? そんな不安さえ、浮かばないはずだ。 一瞬でも「できない」「だめかも」と思ってしまったら、 一気に崩れ去ってしまうくらい、人の気持ちや決心は もろいものだ。 私も日々、そんな自分の心のもろさ、移ろいやすさに 翻弄され、悩まされながら暮らしている。 でも マネキンを見上げるおばあちゃんの素直な横顔や 砂山を作る子供のぷっくらしたほっぺに なんだかとてもストンと、楽な気持ちになった。 PSエッセイのコーナーに「許せないこと」をUPしました。 最近、夜無性にミカンが食べたくなり、食べています(笑) ビタミン不足でしょうか? お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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