2004/09/26(日)00:01
秋のはじまり
髪が伸びて
秋が来た
***
六本木ヒルズを歩いていたらオシャレなおばあちゃんに会った。
本人としては、スーパーに行く時の何気ない格好だったのかも
しれないけど、かわいかった。
ショートボブの白髪は前髪をピンで押さえ、緑色のポロシャツに
黒とベージュと白のストライプのスカートに茶色のサンダル。
買い物袋を片手に、少し曲がった腰で歩いていた。
私はしばらく彼女を見つめていた。
そしたら、おばあちゃんはふいにアルマーニジーンズの前で
立ち止まった。
そして鮮やかな今年風のオレンジ色のコートを着た
ショーウィンドーのマネキンをしばらく見つめた。
こういう瞬間がとても好き。
おばあちゃんとマネキンのアルマーニジーンズの服はあまり
接点がないように思う。
その服をおばあちゃんが着るか、
というとそれは現実味がない。
でもなぜか立ち止まって見上げた。
きっと何かしらその服に惹かれるところがあったのかもしれない。
「ステキ」と思ったのかもしれない。
私は、歳をとってもそういう感性をもっていることがステキだと思った。
*****
ということで、六本木ヒルズに出かけてきた。
最近はまた仕事が増え、残業続きに加え、前回の日記でも
意地をはったように、日本語教員の試験(3日だと思っていたが
17日だった。働き出したらここまで日程に疎くなるものか。)
に向けて一日2冊のテキストを読み込んでいる。
どんなに寝るのが遅くても、5時半起き。
どんなに残業していても、飲みには行く。
そんなこんなで疲れてるはずの土曜日、12時には六本木に。
というのも、
退院したばかりの友人が、私の就職祝いをしてくれるというのだ。
この土曜日も、かつてのアルバイト先の塾長は、
私を呼んでくれて、可愛い生徒に会うチャンスを失うと思うと
とても迷ったけれど、お断りしてしまった。
実は六本木ヒルズは初めてで、
お店で買えるものはやっぱり何もなかったけれど、
まがりなりにもこうしてたどり着いた今にいたる道のりとか、
これからのことなんかをお互いに話していると
やっぱりとてもシアワセだった。
彼女が、「これ・・・」と控えめに差し出した、優しい茶色の
紙袋。
灯をともしてお風呂に浮かべるキャンドルのプレゼントだった。
私がアロマ好きな事を覚えていてくれたその小さな優しさが
とても嬉しかった。
*****
家で早速、試してみる。
隣の部屋にいる弟にライターを借り、火をつけてお湯に浮かべる。
お風呂の明かりを消す。
ごく普通のお風呂が、高級ホテルのバスルームみたいになった。
はしゃいだ気持ちでお湯につかる。
薄暗い中でゆらめくキャンドルの光は、あたたかくもあり、
官能的でもあり(笑)、とてもリラックスした。
気づけば就職して、もうすぐ4ヶ月がたつ。
****
宇野千代先生という私の好きな作家の文章に、こんなくだりが
ある。
書ける。また、一枚書いた。書ける。ひょっとしたら、私は
書けるのではあるまいか。そう思った途端に書けるようになった。
書けないのは書けないと思ったから書けないのだ。書けると信念
すれば書けるのだ。この、思いがけない、天にも登るような啓示は
何だろう。そうだ。失恋すると思うから、失恋するのだ。世の中の凡てが、この方程式の通りになると、私は確信した。そのときから、私は蘇生したように書き始めた。
夏に海へ行った時、懸命に砂山を作る二人の子供を見かけた。
でも、だんだん潮が満ちてきて、波は一瞬の間に、砂山を
さらっていってしまった。
あとにはあっけないくらい平らな砂浜が、何もなかったように
続いていた。
私は遠くから、「あーあ」と落胆した。
でもどうしたことだろう。子供達は顔を見合わせて、
急にひまわりみたいな笑顔で、キャッキャとはしゃぎ出したのだ。
そしてまた、一生懸命に山を作り始めた。
私は、その様子に見とれた。
もう、心から見とれていた。
その集中力にドキリとした。
多分、本当に何かをしたい、できると思っている時には、
先のことや結果の事なんか、頭にないはずだ。
うまくいくかどうか?いかなかったらどうするか?
そんな不安さえ、浮かばないはずだ。
一瞬でも「できない」「だめかも」と思ってしまったら、
一気に崩れ去ってしまうくらい、人の気持ちや決心は
もろいものだ。
私も日々、そんな自分の心のもろさ、移ろいやすさに
翻弄され、悩まされながら暮らしている。
でも
マネキンを見上げるおばあちゃんの素直な横顔や
砂山を作る子供のぷっくらしたほっぺに
なんだかとてもストンと、楽な気持ちになった。
PSエッセイのコーナーに「許せないこと」をUPしました。
最近、夜無性にミカンが食べたくなり、食べています(笑)
ビタミン不足でしょうか?