銀の裏地

2011/09/13(火)08:38

月が綺麗ですね

本(41)

 仲秋の名月。その月明かりにめげることもなく天頂にきらめく1等星2等星。畑が点在するうちの市は、まだ空が広い。  「I love you 」を「貴方を愛しています」と訳した生徒を、夏目金之助先生は「日本語にはそんな言い方は存在しない」と叱ったとか。月が綺麗ですねと言えば伝わる、というのは明治時代の男女交際の奥ゆかしさを伝えるエピソードとしても微笑ましい。それにしても漱石、親友の子規を軽く飛び越えるうたごころの持ち主である。  確かに日本人の語感としては今でも「愛している」は大げさすぎて、かえってわざと軽めに使うしかなかったりも。想いをこめて大事に「好きだ」とか「…大好き」と言ったほうが伝わるのかも。私も初々しかった頃は「満月だね」「うん、満月」なんて会話でじーんとしたりもしたものだ。  あの時代のこの言葉の翻訳でもう一つ印象的なものがある。二葉亭四迷の「死んでもいい」だ。彼が日本に紹介したツルゲーネフ、『片恋』と訳された小説で、普段は大胆なくらい溌剌とした17歳ヒロインのアーシャ(原題は彼女の名前)が、震えながらする告白。「わたし、死んでもいいわ」。  そうそう、天正時代には love は「御大切」と訳していました。いいな。

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