よしなしご利根

2005/04/17(日)16:25

教育開発の学会に出席:専門外の勉強も本当にためになると実感

おべんきょう(126)

前夜はカラオケで帰りが遅かったのだが、早朝に妻に叩き起こされた。 彼女も発表を行う教育開発に関する学会がアメリカン大学で開催されるため、そのドライバー兼カメラマンとして送っていく勤めがあったからである。 学会は複数の部屋で様々なテーマでの発表が同時進行する形で行われた。 「Policy and Practice: Case Studies in Basic and Non-formal Education(理論と実践:基礎教育と正規外教育におけるケーススタディ)」というテーマの中で、妻は「The Case of the Alternative Basic Education Program in Ethiopia(エチオピアにおける代替的基礎教育の事例について)」という発表を行った。 デンマークのNGOがエチオピアで行った就学率向上のためのプロジェクトを例にとり、義務教育を補完する正規外教育の効果、重要性、そして政府関与の必要性について論じた。 ふだんから研究内容を聞いているので内容になんとかついていくことはできたが、専門用語とか略語とかが素人にはやはり難しい。 このような専門家と一般人の乖離は学術分野でもビジネスでも起こりうることだから、自分が詳しいと思っている分野こそ、その説明に充分気を配らなくてはならないのだと悟った。 プレゼンテーションの方は原稿読みの部分も多少あったが堂々としていたし、何より質疑応答のセクションでしっかり回答をできていたことを評価する。 くそ~、やはり私より英語力は高いな、こやつは(笑)。 他にも興味深いプレゼンがあった。 「Soul City: South Africa's Successful Response to HIV/AIDS」 南アフリカ共和国でのエイズ予防に「Soul City」というラジオドラマ&テレビドラマシリーズを活用するという内容である。 南アでは15~49歳の5人に1人がHIV患者であり、国民の死因の40%がHIV/AIDSによるものだという。 通常、エイズ感染を防ぐための教育(コンドーム着用についてなど)や感染者の差別を防ぐための教育は学校が担うものとされている。 しかし、学校教育ではそこまで手が回らないという実情や、充分な教育を受けられなかった大人の存在など、エイズ予防教育における課題は多い。 そこで注目されたのがラジオとテレビという情報媒体である。 南アで定期的に新聞や雑誌を読む人の割合は40%だという。 それに対してテレビを定期的に観る人の割合は65%、ラジオを定期的に聞く人の割合は98%にまで及ぶ。 テレビ、ラジオで流される人気ドラマシリーズの中でエイズ予防の大切さを謳うことにより、視聴者の啓蒙を行うというわけである。 「教育=学校・家庭が担うもの」というイメージを持っていた私にとって、この発想はものすごく斬新であった。 もちろん、メディアの持つ扇動力の怖さというものにも注意しなくてはならない。 実際、ルワンダでのフツ族によるツチ族の虐殺を扇動したのはフツ族側のラジオ局であったのだ。 (ルワンダの大虐殺については過去の日記2005-01-16- 『映画「ホテル・ルワンダ」を観て:恐怖し、しかし生きる勇気をもらう』 を参照) また、他のアフリカ諸国への適用を考えた時、ラジオやテレビの普及率が重要なポイントとなる。 他にも課題はたくさんあるだろうが、非常に興味深いプロジェクトである。 この学会でひときわ目を引いたのが手話の通訳者がいたことである。 出席者に聴覚障害者の学生がいたため、2人の通訳者が1つのプレゼンテーションごとに交代しながら、発表者の言葉を手話に通訳していた。 通訳の人の表現力のすごさに圧倒された。 公的、私的にどれだけのコストがかかっているのかは計り知れないが、彼ら通訳者達の存在が聴覚障害者の高等教育への進学、社会への進出を可能にしているのだと感じた。 聴覚障害者の彼女は手話通訳を通じて積極的に発表者への質問も行い、主にアフリカ諸国での障害者に対する教育制度について聞いていた。 先進国でもまだまだ改善の余地の多い障害者教育であるが、普通教育が未発達な発展途上国での障害者向けの教育の状況となると皆目検討もつかない。。。 こういう厳しい分野をあえて選び学んでいく姿勢には尊敬の念を禁じえない。 聴覚障害者の高等教育への進学と言えば、ワシントンDCには世界で唯一の聴覚障害者のための大学、ギャローデット大学(Gallaudet University)がある。 大学ホームページによれば、1864年にリンカーン大統領の署名によって設立されたこの大学にはアメリカ人以外にも世界中からの留学生が集い、現在、卒業後の進学・就職率は96%に及ぶという。 (Gallaudet Universityのホームページはこちら から) 日本がアメリカから学ぶべき点はこの辺りにもまだまだ余地がありそうだ。 カンファレンスの休憩時間に通訳の人に話し掛けてみた。 私:「これだけ専門的な内容の話を通訳するなんて、本当にすごいですね!」 通訳の人:「それは私の理解度も大切なのですが、通訳をする相手がどれだけ前提を理解しているかも重要なのです。(聴覚障害者の)聞き手が出てきた言葉の定義を知っているのか、文脈をつかんでいるのか、そういうところを考えていくことが重要です」 手話でなくともあてはまる重要なポイントであるな。 いろいろ考えさせられるところがあったため話題があっちこっちにいってしまったが、自分の専門外について触れてみることも非常に勉強になることを改めて実感したのであった。(とは言ってもまだ自分の専門なんて確立できていないのだが・・・) 眠いところを叩き起こしてくれた妻に感謝しなくてはいけないかな(笑)。

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