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自然の狩人

自然の狩人

{『真理子』22

真理子の母は予想していた、予想道理の結果が悲しい

娘の真利子の精神状態が気がかりだつた、今の状態では

私生児として娘の子を共に育て上げる自信も力も不足しているのだから

連絡の無い夫から、封書が届いた 離婚届けに夫の名前と

捺印が押されて 逃亡してしまった専務を捜索するのは諦め

会社も整理した事、そして、それに追い討ちをかけるように

専務の連帯保証人になつた件で 債務の返済を負わされる

破目になつたこと 迷惑がかかるので離婚をすると言う

趣旨の文面が共に、同封されていた。

そして 文章の最後に 「今までありがとう、探さないで欲しい、真理子にも迷惑をかけた、宜しく」と」

書かれていた

地獄の淵に立つとはこの事を言うのだろうか?

娘の真利子は、初恋が悲惨な状態、精神的な負荷を負い

今母親は 精神も肉体も、そして更に経済的な負担を負う

苦境な時に頼りにすべき、夫が 頼れない

いいや原因が 夫の会社の同僚の信頼していた(友人でもある)

人に依って、夫婦、家族がどん底に突き落とされたような

ものだ

悲しみと苦しみに身もだえしていられない

真理子を支えて,夫を探さなければ、、そう思うのだった

気丈な人でない夫は、きっと死ぬ気なのかも知れないと

探して、止めなければ

封書を開け、離婚届けと手紙を読んだ時 直感のように感じた

取り合えず 警察に捜索願い出し 

昔、スナツクの店を出す時に世話になつた弁護士に

連絡をした

そして届いた。封書を持つて 二階の真利子の部屋

のドアの前に立つて ドアを手で叩いた。

母親が部屋に入ると、真理子は母に向かって「お母さん、心配かけてごめん」「心配してくれていたのに,無視したりして」

それだけ言うと声が震えて、涙が出てきてしまった

真理子に向かって今は慰めるしか出来ない、そして

追い討ちのように、手紙の話を伝えなければならない

そう、今、伝えておかなければならないのだつた

真理子は母から、話を聞き終わると直に聞いた

「それで、父さんは今どうしているの?」「死んでしまつたの?」

「弁護士さんに相談して、債務の件は解決したから」

「おとうさんに連絡してあげたいんだけど」行方不明なの」

「破産宣告の手続きを取つたから」

「真理子は、おばあちゃんの家に行つて、卒業まで暮らして欲しいの」

「この家は、出て行く事になつているの、母さんは」

「東京以外の所に行つて安いアパートに住むのよ」

「別れ別れになるけど我慢してね、そうお父さんは警察に

捜索願いを出しているから」

真理子は自身の事で悩み、男性不審にも陥っていたが

其れよりも家庭でもつと大変な出来事が起きている事に

二重のショツクを受けた、母親の話を聞いている内に

当に涙は止まっていた

母方の祖父の家にひとまず、厄介になるのは抵抗がなかつた

今の真利子には其の方が良いと思えた

何人かの同級生が渡部君との関係を感ずいていたし

彼がいる高校に平然と通う精神的な力がなかつた

もう、高校生活も残り少ない

先生方には内密に 転校が可能になるだろうから

真理子は、祈った。父親が無事で戻って来てくれることを

真理子は父親に叱られたことなどなかつた。少し頼りない

ところがあるが、真面目で優しい父

母親から全部、彼との事を聞いていただろうけど

顔をあわせても、普通にそしていつも、と変わらぬ態度

で接してくれていた優しい父

今家族がバラバラな生活に追いこまれようとしているが

生きていて欲しい、今は何も望まない

望むとしたらそれは、父と再び生きて逢いたいと

心底思うのだつた



家庭に困難な問題が襲いかかつて

来なければ、彼氏(渡辺)との問題を乗り越える事が出来なかったのではなかつたかと

しばしば起こり得る、男女の恋愛沙汰の顛末に身も心も

翻弄され 抜け出る事の出来ない深い悩みに引き込まれ

その悩みの淵から這い出せずに自身と相手を責め、泥沼の様な状態から

今も、もがき抜いていたのではないだろうか、と

家族が引き裂かれ 離散しなければならないなんて

数年前まで、予測も想像もつかない

そう、言つてしまえば、 他人は不運、運がなかつたなどと

簡単に言い退けてしまうのだろうが

真理子に起きた事も 真理子の家庭に起きた事件も

気を許し、心までも許した人間の間に生じている

さかのぼつて思えば、あの時 好きにならなければそして 真理子の父も

専務を信頼し過ぎなければ、起こり得なかったのかも今思えば

不幸は人間の相互の関係と利害損得の打算と

他者を犠牲にしても,自己の益を優先させるが為に

生じるのだろう、生まれてから死ぬまでの間に

他者を犠牲にし、不幸にしてまで自身の益を求めたくない

いいや、そんな状況に追い込まれたくないものだと想う

真理子は母から聞かされ、密かに決意した

母と別れて暮らすようになつたら、すぐに自分で父を探そう

今、しなければ 父ともう会えない事態になつたら

将来、悔やむ事になるのではないのだろうかと

家族の為にと父と母は頑張って来た、それは確かだ

だが 破産してしまつた、母は高校は卒業させようと

転校の手続きをしたのに 行かずに父親を探しに行くなんて

母の目の前で言えるはずも無い

真理子は 一刻も早く探し出したかつた。

真理子には、父親の行く先に

少しだけ、想い当たることがあつた

そして『母さんもしかして、今はまだ生きているかも』

だつて、『お父さんいなくなる時20万円位もつているだろう』つて』 『母さん言つてたよね』

『ああーそう、そうだけど』 と母は

真理子の顔を凝視した。『何か父さんの事解かるの?』

真理子は父親が事件前に 母が仕事に出ている夜

テイブルで母が仕度をした夕飯をロング缶のビールを

飲みテレビを観ながら 傍にいた真理子に

呟くように言つていた言葉を思い出していた。

一方真理子の父は生きようとする執念を捨て去るように

彷徨い歩いたのだろう死を決意して

裏切られた事に怒りがあるあいだは

怒りに任せてやつと生きていけたのかも

裏切られた自分に、嘲笑の目を自身が向けた時

へなへなと生きる意欲が失われて

好きな女性と幸福になろうと家庭を築き

子どもと家庭の為に、働き続けた

そう、それが生甲斐と少なくとも感じて

子どもの将来を案じ、それなりの努力もしてきたと

親の思いや、愛情を押し付けた訳でもなく

日常の平凡な暮らしの持続の中で

ボタンの掛け違いのような差異が生じて

だがそれおも、乗り越えようと努力を惜しまなかった

信頼する人間の裏切りに寄って 乗り越えようと

する気力を失ってしまつた

出る事の出来ない牢獄に命が閉じ込められた

ように

光りと未来を失った人間の選択

死を選んで 真理子の父は

故郷の地に向かっていた。








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