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仕事が早く終わったのでデパートの本屋に寄ることにした。
最近は町の本屋がどんどんつぶれている。 豊富な品揃えで駐車場を完備した郊外型の店舗に 客を奪われているのだろうか。 わが故郷である田舎町の老舗の書店も店を閉じたし、 自宅のある町の駅前の書店も日用雑貨の安売り店に変わっていた。 さて、そのデパートに行く途中の交差点に藤棚がある。 石原さんが当選した町では滅多にお目にかかれない風景だろうけど。 その藤棚の下にはベンチがあって、通行人の恰好の休憩場所となっている。 そこを通りかかると、 「旦那、買おてくれんかのぅ」 と声をかけられた。見ると髭もじゃもじゃで髪も伸び放題の男が、 鋭い目つきでにやりと笑って油紙を差し出している。 金縛りにあったように動かないでいると、 男は油紙を開いて中から巻紙をとりだした。 「宮本武蔵の書じゃ、一万円でどうかのぅ」 巻紙を広げると字は難しくて読めないものの達筆で書いてある。 相当な時代物だということは私にでもわかる。 「本物なの?」 「わからん」と言って男は身の上話を始めた。 要約するとこうだ。 一時は人を30人も使って商売をしていたが、 この不景気でダメになり、店はもちろん、 担保に入れていた家・土地もみんなとられ、 家族もちりぢりになった。 人生で天国も地獄も見て、今はもうこの世に思い残すことはないが、 せめて最後にうまいものを食って、うまい酒を飲んで死にたい。 この書は倒産した親しい業者から頼まれて100万円で買った。 もう金もなくなり、この書が最後に残った財産だから買ってほしい。 その男の顔と開いた巻紙を見比べてつい言ってしまった。 「今は持ち合わせがないから五千円なら買うよ」 というわけで“武蔵の書”は今私の部屋に巻いたまま置いてある。 どうしたものかな。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2003.04.14 20:23:58
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