「彼のオートバイ、彼女の痣」【僕のオートバイ、彼女の痣】「この娘はいつもACTの後ろに写っているね」 入社以来の親友Yは、いつも私の事をコールサインで『ACT』と呼んでいたが 会社のユースクラブで行った「尾瀬沼」の写真を見ながら唐突に呟いた。 「誰が?!」 と写真を見ると確かに会社の事務員Sが 私の後ろに写りこんでいるものが数枚あった。 「ACTの事が好きなんじゃないんかい?」 と邪推するYだったが、Sと同じ職場で働いている私には そんな素振りは全く感じられなかった。 Yからそんな指摘を受けてから私は 会社ではどうしてもSの事を意識するようになってしまった。 Sが仕事中に電話しながら大笑いしている事があったが 私は別段その事について干渉も興味も示さなかったのに 彼女は電話を切るなり 「〇〇さんだったんだけど面白い人」 という風に何かにつけて自分の行動の報告を私にしてくるのだ。 独占欲が強くてやきもち焼きの私にはそんなSの性格は心地良かった。 社員旅行で水上温泉へ行った時 『翌朝は社内の希望者が集まってテニスをする』 と言う事になっていて、私も一応出席にしてはおいたのだが 水上温泉へはバイクで行ったので翌朝は時間など気にせずに 部屋でウダウダしていた。 すると 「〇〇さ~ん、行かないんですか~?」 と、わざわざSが部屋まで呼びに来たのだ。 SはSに気のあるB君のフェアレディZの助手席に乗って 私は、その後ろをバイクで煽りながらテニス場までついて行った。 テニス場に着くと前日の雨でグラウンドに水たまりが幾つか出来ていて 白いスコートを着た秘書課の女性たちがフェンスにもたれて暇そうにしていた。 男性社員と数名の女性社員がモップや雑巾を探してきて 水を掃いたり雑巾で掃除しだしたのだが 綺麗なスコートを着た秘書課の女性達は 準備が終わるまでただ眺めているだけだった。 高校生の時に使っていたようなジャージを着たSも 当然のように率先して掃除を手伝っていた。 例え私が社内恋愛するとしても 私は秘書課の女性とは絶対につき合う事は無いだろうなと思ったが それは彼女達からしてみてもお互い様だったか? ある日、Sが 「〇〇さん、これ見て」 と左足の脛の内側を見せるので見てみたら、青い大きな痣が出来ていた。 「どうしたん!?その痣は?」 と訊くと 「〇〇さんと一緒にバイクに乗りたくて免許を取りに行ってるんです」 「小型特殊?」 「中型免許です」 『健気でいじらしい女の子』にめっぽう弱い私は 『一緒に乗りたくて』と言う言葉と 『青い大きな痣』に瞬殺されて 身長150cm余りのSの身体を思わず抱きしめていた。 ― 完 ― ジャンル別一覧
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