前回のつづきです。実際に飲んで感じたことなどを書いていきます。
まずは前回書いたのと同じ提供したワインの説明です。品種は全てリースリングです。
(その1はこちらhttp://plaza.rakuten.co.jp/trancy/diary/201503140000/)
ベルンハルト・アイフェル(以下アイフェル)Bernhard Eifel、クリュッセラート・ヴァイラーClüsserath-Weiler、アンスガー・クリュセラット(以下アンスガー)Ansgar Clüsserathの3つの醸造所のワインを中心としたラインナップです。
辛口
1 Bernhard Eifel 2012 Spätlese trocken
2 Bernhard Eifel 2011 Spätlese trocken
3 Clüsserath-Weiler 2012 'Alte Reben' trocken※
4 Clüsserath-Weiler 2011 'Alte Reben' trocken※
5 Ansgar Clüsserath 2012 Steinreich trocken
6 Ansgar Clüsserath 2012 trocken※
7 Ansgar Clüsserath 2011 trocken※
甘口
8 Ansgar Clüsserath 2012 Kabinett
9 Ansgar Clüsserath 2012 Spätlese
10 Bischofliche Weinguter Trier 2010 Spätlese※
※のあるものは個人で現地にて入手したものです。
メインは辛口の比較で、醸造所、ヴィンテージによる比較をしました。
甘口は等級ごとにどういったものがあるのかというのを知ってもらうようなラインナップにしました。
10は知り合いが持っていたもので、異なるヴィンテージだし少し熟成しているものもあったほうがよいのではということでラインナップに入れました。
この他に差し入れがあったのですがそのワインについては後半に書きます。
5だけは畑名がラベルには記載されていませんがアポテーケの畑です。その他のものはTittenheimer Apothkeの記載があります。
ヴァイラーとアンスガーは今の主流のようにシュペートレーゼのような等級をつけていません。しかし3から5はシュペートレーゼクラス、6と7はアウスレーゼクラスに相当するそうです。
どの醸造所もVDPには加盟していないのですが、VDPの今の格付けだとErste Lage、Grosses Gewaechsに相当します。
この他に北嶋さんからLoerschの2012年のトロッケンを差し入れとして提供していただきました。トリアー在住の知人のお薦めとして送ってもらったワインの中の一本だそうです。
ではワインの感想を書いていきます。ひとつひとつのワインというよりも比較したうえでの感想に重点を置きます。
ヴァインベルクで輸入しているベルンハルト・アイフェルは、2013はそれだけで飲むとおいしく感じるのですが、2012年のほうが引き締まっていて、今の段階で2012年と比べてどちらを選ぶかとしたら2012年を選びます。ヴィンテージの違いに加え一年熟成していることによりよくなっているということもあると思いました。とはいえ2013年産も今飲んでも楽しめます。料理に合わせやすいのは2013年かもしれません。
ヴァイラーはより凝縮感を感じました。2011年産はこのヴィンテージの特徴により酸が少なめなので、2012年より軽く感じましたがその中にも強さがありました。
5のアンスガーのシュタインライヒは、こちらも2012年らしい酸とこの造り手の個性によるパワフルさがありますが、6、7と比べると内側にある力強さは感じませんでした。これはオリジナルの畑(橋の左右のエリア)ではなくライヴェン寄りの上流のエリアの区画であることと樹齢が6、7のものより短いことが関連しているのではという考察をしました。アポテーケ単一のぶどうでもラベルに畑名が書いていないのはそういった区画等の理由によるものではないか、という意見もありました。
6の2012年産はさらっとしているけれど深みを感じます。7の2011年産のほうが丸みがあってまろやかな味わいでした。きれいという言葉があてはまります。
僕は7がこれまでの中で一番好みでしたが、6と7は味わいの中に酸を感じるものが好きかどうかで好みが分かれます。参加者でもほぼ半分に分かれました。僕は酸味が前面に出ているパワフルなものよりはミネラル感などで複雑な味わいのほうが好みなので7のほうが好きなのです。
こうやって比較して飲むとアイフェルよりもヴァイラー、アンスガーのほうが深み、凝縮感があるように感じました。これは土壌、テロワールの違いよりもぶどうの樹の樹齢による違いなのではないかという結論に至りました。ヴァイラーは50年から80年、アンスガーは最長で80年というアナウンスがあり、アイフェルのは区画整理後に植えられていてあきらかにこれらよりは若い年数です。
土壌はブラウシーファー(青色粘板岩)と一部はグラウシーファー(灰色粘板岩、デヴォンシーファーともいう)ですがそれらの違いによる影響はあまり感じませんでした。
また、どういう理念で造っているかという違いも醸造所ごとにはっきりと違いがありました。
アンスガーはぶどうの最大限のポテンシャルを発揮しようと造りその良さを発揮するためには時間がかかる長期熟成型だと思いました。
ヴァイラーは最初の印象は一番良かったのですが、抜栓して30分くらいすると味わいがストンと弱くなったので長期熟成には向いていないかもと思いました(それでも数年だったら上向きになっている可能性は高いです)。
アイフェルは他の2つに比べると弱く感じてしまうのですが、比較した後にあらためて飲むと親しみやすさがいいなあと思いました。ワイン愛好家ではない方の中ではアイフェルのワインが一番好きという方も多いのではないかと思いました。
このことによって、丁寧にしっかりと造っている醸造所であればニーズやタイミングによってよく感じる場があるのでひとつの方向で優劣を決めるのは意味がない、ということをあらためて思いました。
ヴァインテージによる違いですが、醸造所ごとに好みのヴィンテージが異なったことから地域、畑ごとにヴィンテージごとに良し悪しを決めるのは良くないというのがよくわかったという感想を言っている方がいました。
シーファー土壌、特にモーゼルは複雑な要素と醸造の過程によって同じエリアでも結果が異なるのでテロワールの影響だけでは特に判断しにくい地域なのではと思いました。
辛口を一通り飲んだ後に北嶋さん提供のLoerschを飲みました。これもErste Lageに相当するものです。
タイプとしてはアンスガーに似ていましたが、新しさと古典を併せ持っている印象もあって、今のマニアにはこちらのほうがうけるのかなあという感想をいだきました。
甘口はアンスガーの8、9と異なる造り手の10ではアンスガーのほうが明らかにパワフルでした。樹齢もありますが先に述べたように造り手の意向も大きいかと思います。
アンスガーの2010年だとおそらくもっと酸がはっきりしていて力強いのではないかと推測しています。
カビネットは甘いワインという方向を求めていない力強さとミネラル感のあるワインであることに驚いている方もいました。
アンスガーの一部は国内で酒屋から購入したものです。自分も同業者なのでマイナスなことはあまり言いたくはありませんが、現地で買って空輸で持ってきて自宅で温度管理をして保管していたものと明らかにコンディションが違いました。
国内購入のほうには液体のなかの力強さや開放感がなく小さくまとまってしまっているような印象でした。今回提供したものと同じワインを以前個人で空輸したものを飲んだ方もその時と全然違うといっていたので商品が異なるから違うということではにというのは明らかでした。
醸造所の紹介の役目も持っているインポーターのワインが本来の魅力を発揮できていない状況で提供されているのは非常に残念で悲しいことです。この経路でしか飲んだことがない方には発揮されていない状態での印象で終わってしまうので造り手に申し訳なく思ってしまうし、ドイツワインの良さを知ってもらいと願うドイツワインファンとしても残念なことです。
この3つのトリッテンハイムにある醸造所は2013年の秋に訪れたのですが、その時から同じ畑でも醸造所によってあきらかに味わいと方向性が違うと感じていました。そのことが今回こういった会をやる根本にあるのですが、どう違うのかなどをあらためて検証することができてよかったです。
畑のポテンシャル(今回の場合は樹齢が要因)だけの違いではないということは醸造所を訪れたからこそはっきりとわかることでした。それぞれの人柄が如実に表れているのです。そしてその個性をはっきりと表現できるポテンシャルがトリッテンハイムの畑にはあるというのも感じています。
また、この3つの醸造所はどこも後継ぎとして現在中心となっているのが娘、女性なのです。それは偶然なのでしょうが、女性醸造家に適した土地なのかもしれません。
同様に(ほぼ)南向きの急斜面のピースポーター・ゴールドトレプヒェン、ブラネベルガー・ユッファーゾンネンウーア、ベルンカステラー・ドクトール、ヴァーレナー・ゾンネンウーアなどのモーゼル中域の著名な畑に比べればトリッテンハイマー・アポテーケは地味だと言っている方がいます。たしかに目立った個性がなくそれらのワインと比べれば弱く感じるかもしれませんが、やさしい、やわらかい味わいになるのがアポテーケのワインの特徴だと思います。そしてその傾向が女性醸造家には向いているのかもという推測を立てることができます。
個人的にはモーゼル中域のリースリングワインでトロッケン(辛口)でもおいしく飲めるエリアはかなり限られています。この醸造所のこの畑ならばというところもありますが、畑としてだいたいの辛口ワインをおいしく飲めるところは限られていて、その中のひとつがトリッテンハイムなのです。酸があまり前に出なくて、残糖がなくても調和がとれた味わいになるのが好みだからです。
そういうこともあってヴァインベルクではモーゼル中域の中ではトリッテンハイムのワインを扱いたいと思っていてこの地の醸造所を訪れたのでした。
話が方々にとんでしまいましたが、同じ畑(区画)で醸造所違い、ヴィンテージ違いをやると思いがけない発見もあって面白かったです。
そして、こういう試みはマニアと言われるひとたちでなくてもやってみると面白いなあと思います。
飲んで樹齢の違いと言われてもピンとこないかもしれませんが、あきらかに違うということはわかると思います。造り手、ヴィンテージが違うだけでこんなに異なる味わいになる、ということを知ってもらえるだけでよいのです。それだけでよりドイツワインの魅力を知ってもらえることになるからです。
なぜ違うかということを解説するためにはドイツワインを飲みなれている人、ヴィンテージによる違いや醸造所の情報を知っている人が必要ではありますが。違いが醸造所のレベルの質の場合もあったりもするので(大手の大量製品と専業の家族経営の醸造所とか)。
とはいえこうやって発信するだけでも貢献はできるかと思っています。
Trittennheimer Apothekeの畑 右側にも少し続いています
川の右側、橋の左右がアポテーケの畑、左側はアルテーヒェン