2013/09/16(月)23:49
スマイル#1~長すぎるこじつけ感想(ラストその2)
バイト先で別れる花とビト。
その直後、張り込んでいた刑事たちが店に踏み込む。
降り出す雨。
ビトが今日バイトで、この時間にやってくることを当然掴んでいたんだろう。ビトを逮捕する目的の一斉捜査。
背後からかけられる古瀬の声に、文字通り硬直し、震えあがるビト。
「相変わらずろくでもねえことやってんのか」
肩に手をおかれただけで、異常な拒否反応を示す。
「何真面目ぶってんだ。下手な芝居しやがって」
ロッカーを合いカギで開けて調べ始める刑事たち。
「合鍵?」「あるの!?」
なぜ。どうして。「なんもないっすねえ」刑事の声に安堵の表情を浮かべるも、しゃがみ込んでいた古瀬が「は~ん」と声を上げる。
その瞬間、怯えが頂点に達したように、ビトは今にも泣きそうな子供のような表情になる。
この人は、また何か僕を陥れるつもりなんだ。また何かを企んでるんだ。何?今度は何を僕に押し付けるの。
そして、見つかる薬。
「うそだ!」叫ぶビト。
「嘘だじゃねえだろ!どう説明するんだ!署でゆっくり話を聞かせてもらおうか」
署で。もうビトは声もでない。その怯えきった姿を見て、唾棄するように古瀬は言い放つ。「ったく、これだからフィリピン野郎はよ!」
フィリピン人のハーフであること。何の引け目も感じる必要のないそのことを、ビトが否定的に受け止めるようになったのには、この刑事も深くかかわってるのかもしれない。
古瀬がなぜビトをそこまで憎悪するのかは分からない。だが間違いなく彼の経験のどこかで、憎悪せざるをえないことがあったのだろう。それはこれから描かれるのだろうか。描いてほしい。でないと、ステレオタイプなただの悪役刑事で終わってしまう。それではドラマの深みもへったくれもない。
「いかないよ。僕は警察にはいかない」
ほんとうに退行現象だ。完全に子供みたいな口ぶりで、ビトはその場を必死で逃げだす。
逃げ出すしかないのだ。
警察署に連れていかれたら終りだとこの青年は思いこんでる。過去の経験から。何を言っても聞いてもらえない。自分の言うことなど、警察は誰も信じてくれない。
ここに至るまで積み上げられてきたビトの警察に対する忌避感が頂点に達した瞬間でもある。
ここからはもう、息もつかせぬ展開。
HMVに逃げ込むビト。
なんでそこなんだ。目立ちすぎだっつの。と突っ込む。右も左も分からなくて、行き着いた先がそこだったんかな。
隅っこに転がるように逃げ込んで、僕は何もしてないと泣きじゃくる。
そして、思いだしたように携帯をかける。
町村フーズ。
電話に出たのは、社長。
声を聞いた途端にあふれ出る涙。
「ごめんなさい」
一番最初に絞り出した言葉は、これだった。
ごめんなさい。
「僕はなにもしてないんです」
その言葉に、おお、何もしてないなと相槌を打つ社長。
私に代わってと、電話に出るみどり母さん。
優しい声がビトに届く。辛い、悲しい気持が噴き出す。
嘘はついていないんだから、正々堂々としてればいいというみどり母さん。
でも。
でも、前はそんなことなかったよ。
前は誰も、僕の言うこと信じてくれなかったよ。
あたしは信じてるよビト。
社長もしおりも、キンタもブルも。みんなビトを信じる。
優しい声音。
いしださん、さすがです。こんな癒しの、深い優しい声、ないです。
「フィリピンのハーフでも、みんな信じてくれる?」
流れ落ちる涙。
「何いってんの。あたりまえじゃない」
いったい何回見て何回泣けばいいのか自分。
もう泣かないだろうと思っていたら、これ書きながらまた泣いてるし。
ここの松本潤の演技には魂を持ってかれる。
さっきも書いたけれど、この子はどれだけ傷ついて生きてきたのかと。
圧し潰されてる子って実際いたりするんですよ。子供が周囲や状況におしつぶされるのって、その子自身のせいじゃないことがほとんどなんですよ。そんなの私は許せないの。
どんなことしても守ってやりたくなる。
と、そんな子供を思わせるのだ。このビトは。
同じ日本人でも人が育つ境遇は千差万別である。耐えきれない悲しみを経験して育つ子もいる。
恵まれて愛情に囲まれてすくすく育つ子もいる。
ビトは、たまたま心ない人と接することが多くて。傷つけられることが多くて。そんな境遇に育ってしまった青年なんだろう。そして、心に大きな傷を抱えている。自分自身の存在の意味を、見つけられないでいる。
見つけられそうな光が見えた矢先に、この出来事だ。
自分を優しく包んでくれる、信じてくれる人たちがどれほどありがたくて嬉しかっただろう。
なのに、心配かけるなよって言ってくれた人たちに、また心配をかけてしまうことになった。
ごめんなさい。
この最初の言葉がたまらない。
警察が呼ばれ、見つけられるビト。脱兎の如く逃げ出す。
通りを逃げ惑うビトを取り囲むパトカー。
「抵抗しても無駄だ。もう逃げられねーぞ」
「僕は何もやってない!」
この叫び。もはや悲痛。ここも、松本潤、脱皮したなと思わせる叫びだ。
「たくほっといたらやりたい放題だな。外国人はよ」
パトカーから降りてくる古瀬刑事。
丁度そこに居合わせた一馬の脇をすり抜けながら嘯く。
彼の姿をもってして、日本の警察はこんなんじゃないと憤るのは少々的外れな気がする。
ドラマでステレオタイプの悪徳警官が描かれるなんてよくあることだ。
それを見たから日本の警察はみんなこんな差別丸出しだとか思う人なんているんだろうか。
そんなこと言ってたら、よくドラマの題材になる自分の職業なんて、とんでもない勘違いされてしまうよ。
ドラマはドラマ。リアリティと現実をありのまま写し取ることは似て非なるものなのだ。
視聴者も、そこをわきまえてないといけないんじゃないのかな。
ドラマの主人公も登場人物も「象徴」ではなく、「個」にすぎないのだから。
ここは素直に、憎々しい悪役を思う存分演じ上げている北見さんに拍手喝采を送るべきだ。
彼の悪役ぶりがあるから、ビトの痛々しさが際立つ。少々際立ちすぎてしまったかもしれないが。
鞄を振り回して抵抗するビト。
ビトのそばに何とかして近寄ろうとする花。
取り押さえられるビト。
「おい、ビト。この人殺しが」古瀬の言葉。
やめろおおおおおおお!
今までおどおどしてきたビトとは思えない、空恐ろしささえ感じさせる、咆哮。
松潤。
二皮剥けたな。と思ったのでありました。
逃げ出してから以降はまったくもって息つく暇ない手に汗握る展開。というか、手に汗握ってることすら忘れてた。釘付けだった。
それは初回もリピートしても変わらない。
映画みたいだと思ったよ。カメラワークといい、音楽といい。
いやー。
初回見た後、尾を引いて、その日一睡もできなかったんですよ。眠たくならなかった。
何をしてたのかすらはっきりしない。このドラマを咀嚼するのにそれだけ時間がかかったのかもしれない。
一言で言うなら衝撃だった。
月曜日まで尾を引いて、火曜日あたりからやっと息を吹き返せた。
結構、ドスンと来ました。
深い、とは思わないんだけど、インパクトはある。
そして、
彼らが描きたかったテーマに共鳴した。
これからどんな風に料理してくれるか楽しみで仕方がない。